Molecular mechanism of Helicobacter pylori-mediated pathogenesis
ヘリコバクターピロリの病原性に関する研究

Keigo SHIBAYAMA
2008 Nippon Saikingaku Zasshi  
Helicobacter pylori は胃に持続感染し,胃炎,胃潰瘍,胃癌の発症の原因となる。我々は,H. pylori が産生す る蛋白で胃上皮細胞にアポトーシスを誘導する活性を持つものを精製,同定した。この蛋白は -glutamyltranspeptidase(GGT)だった。GGT は分泌蛋白で,菌体外に存在する物質を基質としていた。GGT は,グルタミンと グルタチオンに対して非常に強い加水分解活性を示し,K m 値が 1 µM 以下だった。宿主細胞にとって,環境中の グルタミンとグルタチオンが加水分解により消費される事は,細胞内でそれらを合成するために ATP の消費を課 すことになるとともに,グルタチオンの欠乏は,宿主細胞を酸化ストレスにさらすことになる。これらのことは, 宿主細胞に対する障害メカニズムの一つと考えられる。一方 H. pylori はグルタミントランスポーターを持たず,細 胞外のグルタミンを GGT の働きによりグルタミン酸に加水分解して取り込んでいた。H. pylori の GGT による病
more » ... 示すというものだった。 はじめに Helicobacter pylori が Marshall らにより 1984 年に報告され (5),その後この菌と胃疾患との関連について多くの疫学 的,生化学的な研究が行われ,この菌の感染が胃炎,胃十 二指腸潰瘍,そして胃癌の発症に関わっていることが明ら かになってきた。H. pylori は他の多くの病原細菌と異なり, 感染が長期に持続して様々な病態が形成される。H. pylori は様々な病原因子を産生し,胃粘膜細胞に対し様々な生理 作用を及ぼす (11)。我々は,H. pylori が産生する蛋白で胃 上皮細胞にアポトーシスを誘導する活性を持つものを精 製,同定した。この蛋白は γ-glutamyltranspeptidase(GGT) だった。これまでに我々はこの蛋白の生理,病理的機能の 解析を行ってきた。この論文では,この蛋白に関してこれ までに得られた知見を紹介し,H. pylori による病原性メカ ニズムとの関わりを考察する。 1.H. pylori より新たに見出されたアポトーシス誘導蛋白 我々は,H. pylori が産生する蛋白成分に AGS 細胞に対し てアポトーシス誘導活性を示すものが存在することを見出 した(図 1)(12)。そしてその蛋白を H. pylori 26695 株より 精製,同定した(図 2)(13)。この蛋白は CagA,VacA など のそれまでに知られていた病原因子とは全く異なるもの だった。この蛋白は HP1118 遺伝子にコードされているも ので, GGT だった。 この蛋白は Large subunit と Small subunit からなり,N 末端にシグナル配列を持つ分泌蛋白でペリプ ラズムに存在する事が分かった。一般に,GGT はグルタチ オンなど γ-glutamyl 基を持つものを基質として,その γ-Keigo SHIBAYAMA Molecular mechanism of Helicobacter pylori-mediated pathogenesis
doi:10.3412/jsb.63.387 pmid:19317227 fatcat:646p3ro6prabnenpplntp2zn5u