とう 1.研究目的 カンアオイ類は 1 万年に数 km 程しか移動しないとされ 7),12) , 国内に多くの地域固有種が生育する。そのうちの一種であるタマ ノカンアオイ(Asarum tamaense)は,環境省指定絶滅危惧Ⅱ類 に指定され, 多摩丘陵を中心に生育する地域固有種である 5) 。 その 個体数の減少要因として多摩丘陵およびその周辺の都市開発,住 宅,道路,鉄道などによる緑地の孤立化 5) ,二次林の管理放棄によ る林床の光条件の悪化 2),10),11) ,さらには盗掘による被害 4) などが 挙げられる。 前川 8) によると, タマノカンアオイの自生地は落葉広葉樹林が 5 割を占め,アズマネザサ草地は 1 割程度であった。また,鈴木ほ か 17) によれば, 多摩丘陵および加住丘陵のタマノカンアオイ 80 集 団を調査したところ,アズマネザサ(Pleioblastus chino)の林床 下に生育する集団数は落葉広葉樹林より少なく,集団あたりの個 体数も少ないという。 小泉によれば, タマノカンアオイは相対照度が 5%以下の光環境 でも,

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... が 4) , 二次林内における管理放 棄によるアズマネザサの侵入は,タマノカンアオイの実生個体の 定着を阻害する要因となりうる 4) 。同属で絶滅危惧Ⅱ類に指定さ れるミヤコアオイ(Asarum asperum)の分布に最も必要な要因 は光条件であることが報告されている 13) 。このような放棄二次林 における自然再生手法として, ササの刈り取りが挙げられるが 10) , 二次林におけるアズマネザサの刈り取りがタマノカンアオイの生 育・開花にどのような影響を及ぼすのか詳細な報告はない。一方 で,タマノカンアオイは自家和合性であるといわれている 16) 。こ のことから,小規模な集団においてもアズマネザサの刈り取りに よって,開花個体が増加すれば,種子繁殖による個体群の維持が 可能であると予想される。 そこで本研究では,アズマネザサの刈り取りを行っている条件 と行っていない条件に生育するタマノカンアオイの個体数や開花 率を調査し,放棄二次林に繁茂したアズマネザサがタマノカンア オイの生育や開花にどのような影響を与えているのかを明らかに することを目的として野外実験を行った。 2.材料および方法 (1)調査対象地 調査は多摩丘陵南部に位置する神奈川県川崎市麻生区の早野梅 ヶ谷特別緑地保全地区 (約11ha) で行った。 林内はコナラ (Quercus serrata)やイヌシデ(Carpinus tschonoskii) ,ヤマザクラ (Cerasus jamasakura) などの落葉広葉樹で構成される二次林で ある 9) 。当調査対象地の落葉広葉樹林は約 40 年に亘る管理放棄に よって 9) ,稈高が 2~3m のアズマネザサが繁茂している。当調査 地では, 放棄二次林の再生のため, 2010 年より毎年夏期に一度 (7 月中下旬頃) ,アズマネザサを刈り取る"刈り取り区" (西向き斜 面) を設置した。 本研究では, アズマネザサの刈り取りの有無によ るタマノカンアオイの生育・開花量を比較するために,同一方向 斜面でアズマネザサの林床下でタマノカンアオイの集団が確認さ れた地点に"無刈り取り区"を設置した(図-1) 。刈り取りは地面 から高さ 10cm 程度で,タマノカンアオイを刈らないように,鎌 による手刈りで行った。アズマネザサの群落高は刈り取り後に高 さ 50cm 程度まで再生するが,刈り取り区では再生したアズマネ ザサがタマノカンアオイを完全に被覆するには至らない。2015 年 2 月,タマノカンアオイの生育が確認されている両区画の斜面そ れぞれに,縦 25m×横 30m の調査区画を設置した。調査区画は図 -2 に示すように 5m×5m のコドラートに区分し, 各区 30 コドラ ートで調査を行った。なお,調査時と刈り取り管理時のみ調査区 へ立ち入り,踏圧の影響は最小限に留めた。 (2)調査内容 1)光環境 低木層のアズマネザサの生育の有無が林床の光環境に及ぼす影 響を明らかにするため,2016 年 5 月~2017 年 11 月までの間, 光合成有効放射センサー(MIJ-14PAR 弐型,日本環境計測社製) タマノカンアオイの生育・開花に及ぼすアズマネザサの刈り取りの影響 The effects of cutting Pleioblastus chino on the growth and flowering of Asarum tamaense Abstract: The evergreen perennial herb, Asarum tamaense (Aristolochiaceae), is an endangered species distributed across the Tama Hills in the Kanto region of Japan. In abandoned secondary forests, Pleioblastus chino can grow unregulated and suppress the growth of the herbaceous layer. This study investigated how cutting P. chino affects the growth and flowering of A. tamaense in an abandoned secondary forest. Two study areas (cutting and non-cutting) were defined in an area of the Tama Hills secondary forests that had been untouched for approximately 40 years. P. chino was cut with a sickle in only the cutting area during the summers of 2010 -2018. Each April from 2015 to 2018, in both areas, the number of patches, leaves and flowers were counted in 30 quadrats, 5m × 5m at each quadrat, and the photosynthetically active radiation (PAR) and soil moisture content were checked. The cutting area had less the number of patches than the non-cutting area, and there were no differences in the patches increase rate over time between the areas. The number of leaves and flowers and the increase rate in the cutting area were higher; as the number of leaves increased, the number of flowers increased. PAR was also higher in the cutting area. These results suggest that cutting P. chino contributes the conservation of A. tamaense.