2種類のアンチゴライトが作る層構造と生成メカニズム
Development of distinct layered structures for two types of Antigorite

Jinya Kobayashi, Tomoyuki Mizukami, Yusuke Soda, Yuki Kusano, Syoji Arai
2015 Annual Meeting of the Geological Society of Japan  
University) はじめに マントルウェッジではかんらん岩の蛇紋岩化が進行していると考えられ ているが、その発達速度を制約する直接的な情報は少ない。三波川帯東赤石 岩体のアンチゴライト蛇紋岩はアンチゴライト(Atg)とかんらん石(Ol)の量 比の変化による層構造をなしている。この中程度の蛇紋岩化を被る露頭は、 蛇紋岩化プロセスの途中段階を記録していると考えられる。本研究では、蛇 紋岩化における反応と物質移動、 構造形成に関する情報を取り出すことを目 的に、Atg 蛇紋岩の層状構造の解析を行った。解析結果から 2 種類の Atg が 作る構造と生成メカニズムについて考察する。 地質概説 東赤石岩体は、四国三波川変成帯の高変成度域に、スラブ由来の変成岩 の構造的上位を占める形で分布する。この超マフィック岩体はマントルウ ェッジの欠片と見ることができ、沈み込み境界深部でのマントル物質とス ラブ物質の相互作用を理解する上で重要な情報を有する(Mizukami and Wallis, 2005)。 岩体南縁部の八巻山地域には Atg 蛇紋岩の良好な露出がある。 Atg+Ol
more » ... 岩石学的にほぼ均質なポーフィロクラスティック組織をなすダナイトに、 厚さ数 m までの様々なスケールの Atg 層状構造が発達する。Atg 量は Atg に富む層(30-60%)と Ol に富む層(20%以下)の間でバイモーダル分布を 示す。Atg に富む層を顕微鏡下で観察すると、m スケールの構造要素が認 識でき、(1)単結晶もしくは(2)複数の結晶が集層する束状集合体の 2 種類がある(Mizukami et al., 2014)。単結晶 Atg は露頭全体に観察される。 Atg に富む層では束状 Atg が多くなり、強い面状配列を示す。 化学反応システムの検討 構成鉱物は主に Ol、Atg、Cr スピネル(Spl)で、初成的な鉱物化学組成 はほぼ一定である。Atg 形成の反応システムと物質移動を検討するために、 Atg の含有量が異なる 17 試料について XRF 分析から全岩化学組成のデータ を得た。Spl 由来の成分を除いた全岩化学組成を見ると、Atg に富む層は、 Atg の増加に応じて Si と Al が増える正の相関を示し、 Ol + H 2 O + SiO 2 /Al 2 O 3 → Atg の開放系での反応を示唆する。一方 Ol に富む層では Atg 増加に応じ た組成変化は見られなかった。 層構造の1次元解析:マルチスケールでの対比 肉眼観察に基づくメソスケール(cm~m)の層構造の計測に加えて、代 表的な Atg 層、Ol 層の研磨試料についてラマンライン分析してマイクロス ケール(<mm)の層構造を描き出した。メソスケール層構造、束状 Atg、 単結晶 Atg の 3 つの構造に区分して、Atg 層と Ol 層の厚さを測定し、各々 について層厚の累積分布を取ると、すべての構造要素について指数分布に 近い形が得られた。指数分布の傾きが異なっていることから、これらの構 造のスケーリングは不連続であり、 成長要因が異なっていると考えられる。 成因の考察 単結晶 Atg と束状 Atg の層厚サイズ分布の違いは成長メカニズムが異なる ことを示唆する。形成条件は、単結晶 Atg については Atg の高温安定限界付 近、束状 Atg はより低温が推定される(Mizukami and Wallis, 2005)。低温ほど 外来成分の付加が顕著という全岩 XRF の結果は、主に Atg 生成時に関与し た流体の量を反映すると考えられる。 単結晶 Atg を形成した Si に乏しい H 2 O 流体には拡散的な移動が、束状 Atg を生成した Si(Al)に富む流体はチャネル 流による移動が推定され、 各々の離散的もしくは層状の構造と整合的である。 両者のサイズ分布の指数の違いは成長速度の多様性により解釈でき、 層構造 に鉛直方向の Si 濃度勾配の大きさが、束状組織の形成によってより強調さ れることでより厚い Atg 層を形成すると考えられる。 [引用文献] Mizukami, T. and Wallis, S.R., 2005, Tectonics, 24, TC6012; Mizukami et al., 2014, EPSL, 401,148-158
doi:10.14863/geosocabst.2015.0_532 fatcat:jtqkveeaqbhuxbnp6fsm7rva3u