溶融塩・イオン液体と表面処理技術 潤滑剤としてのイオン液体の可能性
Ionic Liquids as a Candidate for Lubricants

Shigeyuki MORI
2009 Journal of The Surface Finishing Society of Japan  
.潤滑剤と環境問題 適切な潤滑により摩擦・摩耗を制御する科学と技術をトラ イボロジーと呼んでいる。機械加工,ベアリングあるいはギ ヤなど,固体が接触し動く部分がたくさんある。すなわち, 生産から輸送あるいは生活において,トライボロジーがかか わる問題が山積している。これらの可動部の摩擦抵抗を下げ ることにより省エネルギーが,また軸受の摩耗を防止するこ とにより機械部品や装置の耐久性を向上し寿命を延ばすこと ができ,これは省資源につながる。その結果,環境負荷の低 減が実現でき,トライボロジー技術は 21 世紀の効率化技術 として注目されている 。摩擦・摩耗の特性は表面あるいは 接触界面の構造に強く依存しており,表面技術の一部である。 イオン液体の潤滑を考えるに際して,潤滑機構に触れてお きたい。潤滑現象は 2 つに大別できる (図 1) 。すなわち, ボー ルベアリングのように潤滑油により固体同士の直接接触を防 ぐ「流体潤滑」と固体接触が起こる「境界潤滑」である。流 体潤滑の場合,潤滑特性は主として潤滑油の粘度特性に依存 するが,表面の問題としては潤滑油の材料に対する濡れ性や
more » ... 潤滑油の材料に対する濡れ性や 表面形状による潤滑油のトラップ効果などが挙げられる。一 方,境界潤滑では接触界面の構造が潤滑特性に強く関与して いる。材料表面の構造や薄膜構造だけでなく,潤滑油成分と 材料の反応により生成する表面膜 (境界潤滑膜) の構造に境界 潤滑特性が依存する。したがって,潤滑条件下における表面 反応がトライボロジー特性に重要な影響を与えることになる。 ここでは,イオン液体を潤滑油として用いるに際して,潤 滑油としての特徴と今後の課題を述べたい。材料の観点から 摩耗を防止するには DLC(Diamond Like Carbon) のような硬 質膜で表面を保護することが考えられる。また,二硫化モリ ブデンのような固体潤滑性の薄膜のコーティングにより摩擦 係数を下げることができる。このような固体潤滑膜に比べて 潤滑油はさまざまな特徴を有する 。潤滑油は流れることに より必要な接触部に潤滑剤を供給できるため自己修復機能が ある。また,摩擦熱の除去や摩耗粉の除去など接触部におけ る物質輸送の媒体にもなる。したがって,イオン液体を潤滑 油として用いることができれば,特殊環境における潤滑油と しても活用できると期待される。近年,潤滑油としてのイオ ン液体が注目され,イオン液体のトライボロジー特性に関す る論文も増加している。 2 .潤滑油としてのイオン液体の特徴 他の解説でも触れられているように,イオン液体はさまざ まな物理的・化学的な特徴を持っており,これは潤滑油とし ても有用な特性である (表 1) 。たとえば, 蒸気圧が非常に低い, 熱容量が大きい,化学安定性が高いなどが挙げられる。これ らの特性を潤滑油に当てはめてみると,蒸気圧の低い流体は 宇宙や半導体技術など真空中で使える潤滑油になる。また, ハードディスクや時計の軸受のように,極微量の潤滑油で潤 滑する機構では,蒸発による損失がなく長寿命の潤滑油とし て期待できる。熱容量が大きいことは摩擦熱の冷却効果を期 待でき摩擦接触部の温度上昇を抑えることができる。高い化 潤滑剤としてのイオン液体の可能性 森 誠 之 a a 岩手大学 工学部 (〒 020-8551 岩手県盛岡市上田 4-3-5) 図 1 潤滑機構と関連する潤滑油の特性 イオン液体 潤滑油 蒸気圧が低い 熱容量が大きい 粘度が適度 溶解性 熱分解温度が高い 化学安定性が高い 真空用潤滑油 冷却効果 流体潤滑効果 添加剤の溶媒 高温での潤滑油 過酷な条件での潤滑油 表 1 イオン液体の特徴と潤滑油としての性能
doi:10.4139/sfj.60.502 fatcat:27ckwdlrrjashlikk3yvveq24a