Surface Modification of Biodegradable Magnesium Alloys

Sachiko HIROMOTO
2018 Journal of The Surface Finishing Society of Japan  
.はじめに 骨固定材やステントなどの医療用デバイスには,現在,Ti 合金や 316L ステンレス鋼,Co-Cr 合金といった不働態金属 材料が用いられている 。ボーンプレートや骨ネジなどの骨 固定材を骨折治癒後にも留置し続けると材料が骨への適度な 荷重分配を阻害 (荷重遮断) して骨吸収や再骨折が起こる場合 があるため,治癒後には手術での抜去が望ましい。血管拡張 ステントが長期間血管内に留置されていると,再狭窄を起こ す,抗血栓薬を摂取し続ける必要があるなどの不具合がある が,ステントは手術での抜去ができない。比較的強度を必要 としないステントや骨固定材にはポリ乳酸 (PLLA) などの生 分解性ポリマーが用いられることがあるが,用途に限界があ る。そこで,生体内で溶解・吸収される Mg / Mg 合金が注 目されている。生体外での腐食試験や動物埋入試験より,既 存の Mg / Mg 合金では生体内での初期の腐食溶解が速すぎ ることが明らかになり,生体用 Mg 合金の開発や腐食を適度 に抑制する表面処理についての研究開発が盛んに行われてい る。本稿では,生体用 Mg / Mg
more » ... 面処理の開発動向 を概説するとともに,著者らが整形外科・歯科デバイス用に 開発したリン酸カルシウム被膜について紹介する。 2 .生体内溶解性 Mg 合金 Mg / Mg 合金は,1) 生体内環境で容易に腐食し,2)Mg が生体必須元素であり,3) 強度 (耐力:100 ~ 250 MPa) が生 分解性ポリマー (耐力:15 ~ 75 MPa) よりも高く,また 4) Mg 合金のヤング率 (約 40 GPa) が皮質骨 (10 ~ 30 GPa) と同 等のため骨への荷重遮断を起こさないと考えられる。これら の性質より,Mg / Mg 合金はステントや骨固定材,人工骨 への適用が検討され ,近年では主に Mg-Y-RE-Zr 合金製 のステントや外反母趾治療用骨ネジの臨床試験が行われてい る , 。動物試験や臨床試験より,Mg イオンに骨形成を促 進する効果があること,Mg イオンは肝臓や腎臓などの臓器 に特段の影響を及ぼしていないこと,腐食に伴う pH 上昇に 起因する抗菌性が期待できることなど,Mg 合金の利点が報 告されている。 生体内溶解性金属材料には,患部が治癒するまでは周囲か らの荷重を支持する強度を保持し,治癒後に安全に溶解,消 失することが求められる。例えば上肢骨の骨折部位の融合に は 3 ~ 6 週 ,機能回復には 6 ~ 12 週かかる。下肢骨の骨 折治癒にかかる期間は 4 ヵ月以上と長い。特段の表面処理を 行っていない Mg 合金では腐食が非常に速く進んで必要な期 間の強度保持が困難なこと,腐食に伴い発生した水素ガスに よるガス溜まりが周囲組織を圧迫したり表面への組織の接着 を阻害したりするなどの課題が明らかになった 。既存の Mg 合金には毒性が不明の希土類元素が含まれ,Mg (OH) や リン酸カルシウムなどの腐食生成物が長期的に生体に及ぼす 影響が未知であるという課題もある。生体に安全な元素で構 成した高耐食性合金の開発が行われているが,耐食性向上に は限界がある。このため,腐食速度の制御と生体適合性の向 上を目的とした様々な表面処理が検討されている。 3 .生体内環境での Mg 合金の腐食 Mg 合金の大気酸化皮膜は,主成分の Mg (OH) が Cl イオ ンよって可溶性の MgCl になって徐々に溶解するためほと んど保護性を示さない。Mg の腐食反応 (式 (1) ) に示される ように,Mg の腐食により H ガスの発生および pH 上昇が起 こる。 Mg+2H O→Mg +H +2OH ........................(1) Mg +2OH →Mg (OH) .................................(2) このため,溶出した Mg イオンの一部が Mg (OH) とし て析出する (式 (2) ) のとともに,体液に過飽和に存在する Ca および H x PO n イオンがリン酸カルシウムとして析出し て腐食に対する保護層として働く 。体液中のタンパク 質やアミノ酸は,Mg イオンと錯体を形成して腐食を促進 するか,または表面に吸着して腐食を抑制する。体液は主に 生体内溶解性マグネシウム合金の表面処理 廣 本 祥 子 a a (国研) 物質・材料研究機構 構造材料研究拠点 腐食特性グループ (〒 305-0047 茨城県つくば市千現 1-2-1)
doi:10.4139/sfj.69.323 fatcat:ilglkms5xndh7eikdthbgpkrqy