Health Benefits Assessment of the Japanese Diet

Tsuyoshi TSUDUKI
2019 Vacuum and Surface Science  
は じ め に 日本人の平均寿命は延び続け,現在では世界で最も長 寿の国となった。日本人は寿命が長いだけでなく,自立 して生活できる期間を示す健康寿命においても世界一で ある。日本を世界一の長寿国に導いた要因には,欧米諸 国と異なる独自の食生活の影響が大きいと考えられる。 近年,日本人の食事(日本食)は世界から健康食として 注目されている。これまでに食事の摂り方を対象とした 疫学調査や,和食の中の特徴的な成分についての栄養学 的研究が世界中で行われており,その機能性が徐々に明 らかにされ,日本の食事は健康有益性が高いことが推察 されている。 2. 年代の異なる日本食を比較 日本の食事は,50 年ほど前から大きく変わってきた。 これは日本の食事が高度経済成長期以降,急速に欧米化 してきたからである。この欧米化に伴い,動脈硬化症, 糖尿病,がんなどの生活習慣病が顕著に増加し,大きな 問題となっている。つまり日本の食事は健康的と言われ ているが,現代の日本食よりも欧米化前の伝統的な日本 食の方がより,健康上有益であると考えられる。しか し,いつの時代の日本食が優れた効能を持つのかを科学
more » ... 評価した研究や,過去の日本食の効能を現代の日本 食と比較した研究は報告されていない。そこで,様々な 年代の日本食を再現し,正常マウスである ICR マウス に長期摂取させ,生活習慣病に深く関わる脂質・糖質代 謝系に与える影響について検討し,各年代の日本食の健 康有益性について試験した。加えて,老化性疾患を予防 し,健康維持に有効な日本食を同定することを目的と し,各年代の日本食飼料を老化促進モデルマウスである SAMP8 マウスに長期摂取させ,脂質・糖質代謝系に与 える影響ついて検討した。 現代の日本食と過去の日本食の健康有益性を比較する にあたり,2005 年の日本食を現代日本食と定義した。 そして,過去の日本食と比較するため,管理栄養士の指 導の下,国民栄養調査および国民健康・栄養調査(以 下,国民健康・栄養調査)に基づき,2005 年,1990 年, 1975 年,1960 年それぞれの 1 週間分(21 食)の日本食 の献立を作成した。その後,これを調理し,食事を真空 凍結乾燥機で凍結乾燥し,粉砕・攪拌して均一化した。 作製した 2005 年,1990 年,1975 年,1960 年の日本食 をそれぞれ試験食とし,ICR マウス(3 週齢,雄性)ま たは SAMP8 マウス(3 週齢,雄性)を 4 群{2005 年日 本食含有飼料摂取(05 年)群,1990 年日本食含有飼料 摂取(90 年)群,1975 年日本食含有飼料摂取(75 年) 群,1960 年日本食含有飼料摂取(60 年)群}に分け, 試験食を 8ヶ月間自由摂食させた。試験終了後,各種分 析に供した結果,ICR マウス,SAMP8 マウス共に,内 臓脂肪量が 05 年群に比べて 75 年群で有意に低値を示し た。したがって,1975 年の日本食が最も肥満になりに くいことが示唆された。また,75 年群では,肝臓トリ アシルグリセロール量が 05 年群に比べて減少傾向を示 し,肝臓コレステロール量は有意に減少した。したがっ て,1975 年の日本食は 2005 年の日本食と比べて脂肪肝 の発症リスクが低いことが示唆された。加えて,75 年 群では,05 年群と比較して血漿インスリン濃度が低値 を示し,インスリン抵抗性の指標である HOMA-IR が減 少した。よって,1975 年の日本食は 2005 年の日本食と 比べて糖尿病の発症リスクが低いことが示唆された。75 年群で健康有益性が見られたメカニズムについて詳細に 検討するため,脂質・糖質代謝において中心的な役割を 担っている肝臓の生活習慣病関連遺伝子について DNA マイクロアレイ解析を行った。その結果,75 年群では, 脂肪が積極的に分解され,また脂肪酸合成が抑えられた ことにより肝臓脂質や内臓脂肪の蓄積が抑制されたこと が示唆された。以上より,2005 年の日本食と比べて過 去の日本食には肥満や脂肪肝,糖尿病の発症リスクを軽 減させる効果があり,特に 1975 年頃の日本食にその効 果が強く現れ,健康維持に効果的であると考えられた 1) 。 *
doi:10.1380/vss.62.731 fatcat:jnqs3bcrgjcsjlj7dxjvu4etri