Kazuyo Ando (2017). Word of Mouth on Consumer Decision Making: Persuasion Process Approach. Tokyo: Chikura Shobo. (In Japanese)

Satoru Shibuya
2018 Japan Marketing Journal  
I.はじめに 2017 年 6 月に刊行された本書は,著者がこれまでに 行ってきた多数の実証研究を「消費者購買意思決定とク チコミ行動」という観点からまとめたものであり,クチ コミ研究の領域において以下の 2 点で大きな貢献を果た すものである。 第 1 点は,従来どちらかと言えばクチコミが受信者に 及ぼす効果に関心が向きがちであった同研究領域に対し て,そのような効果がもたらされる原因を解明しようと している点である。本書第 I 部では,クチコミの効果を もたらす要因として,対面クチコミと e クチコミの特性 の対比(第 1 章) ,対面クチコミにおける非言語的要素 や感情伝播(第 2 章) ,クチコミにおけるナラティブ構 造(第 3 章)を取り上げている。 第 2 点は,同じく従来どちらかと言えばクチコミが受 信者に及ぼす影響に関心が向きがちであった同研究領域 に対して,クチコミ発信が発信者自身に及ぼす影響に関 心を向けている点である。本書第 III 部では,クチコミ発 信がクチコミ対象に対する発信者自身の評価・記憶に及 ぼす影響(第 6 章) ,発信者自身の態度や行動意向に及
more » ... す影響(第 7 章)を取り上げている。 本書ではこれらの大きな 2 つのテーマに加えて,クチ コミ自体の言語的特性(第 II 部:第 4 章,第 5 章) ,ク チコミ発信の先行要因(第 IV 部:第 8 章~第 10 章)を 扱っている。そしてこれらすべてのイシューに対して, いずれも先行研究をていねいにレビューした上で仮説を 設定し,会場実験または Web 調査を通じて検証を行って いる。本書は,同氏の十数年におよぶ研究成果が結実し た力作であると同時に,多岐にわたるクチコミ研究の領 域に対して,受信者と発信者の双方を対象とし,さらに 従来比較的研究蓄積が多くない領域にも積極的に目を向 けた大著である。 本稿では,このような本書のすべてを取り上げること はとうてい不可能であるため,全体として本書の概要を 見た上で,第 I 部から第 2 章,第 III 部から第 6 章につい て取り上げ,議論してみたい。 II.本書の概要 第 I 部では,第 1 章で対面クチコミと e クチコミの特 性を比較し,受信者である消費者の購買意思決定プロセ スの段階ごとに両者を比較したところ,対面クチコミの 影響力の方が大きかったことが示されている。第 2 章で は,このような対面クチコミと非対面(電子メール)に よるクチコミとを比較し,前者の影響力を構成する要因 として,非言語的要素および感情伝播を取り上げている。 また第 3 章では,クチコミの多くがナラティブ構造をと Book Review 書評 -シリーズ 95
doi:10.7222/marketing.2018.045 fatcat:ot6lxn7q2bbxtm7rvhb5ow7x5y