Fundamental and Application of High Functionalization of Thin Films by Electrochemical Formation Techniques
電気化学的手法による高機能化薄膜創製の基礎と応用

Tsugito YAMASHITA
2013 Journal of The Surface Finishing Society of Japan  
.はじめに 電気化学的手法を用いて,水溶液から様々な機能を有する 薄膜を創製することができる。異種の金属を交互に規則正し く積層して,人工的に作製される多層膜は,単一金属または 合金には見られない物性を有しており,新たな機能膜として 期待されている。他方,銅の電析が携帯電話やパソコンの配 線形成に応用されているが,小型化に伴う微細配線化が進み, 高密度・高精度な銅電析皮膜が求められている。銅の電析結 晶を制御し,適切な機能を有する皮膜を得るためには,電析 速度を抑制または促進させる数種類の添加剤が複合的に使用 されている。 本稿においては,硬質クロム代替皮膜として期待される ニッケル-リン非晶質合金に着目して,その機能を強化すべ きナノ多層膜を作製し,その微細構造解析および物性評価, 各種機能膜への展開,傾斜組成合金皮膜の創製と応用につい て述べる。さらに,銅の電析における添加剤の吸着機構を電 気化学的および構造学的に解析した結果につい紹介する。 2 .実験方法 ニッケル-リン合金系多層膜の作製に用いた浴組成は, 0.50 mol dm 硫酸ニッケル,0.13 mol dm
more » ... ル, 0.10 mol dm クエン酸,0.05 mol dm 亜リン酸とした。硫 酸により pH 1.5 に調整し,その 0.15 dm を浴温 50 ℃に保持 して使用した。単層膜は電流密度 5 mA~200 mA cm の定 電流電解法,多層膜の作製にはダブルパルス法を用いた。 Ni-P 結晶質 (200 mA cm )/Ni-P 非晶質 (5 mA cm ) からなる 一層膜厚 10 nm~5000 nm の多層膜を作製した。ニッケル中 のリン含有量は EPMA,皮膜の深さ方向の元素分析には GD-OES,AES および XPS,構造解析には XRD,表面・断面観 察には SEM を用いた。皮膜硬度は微小硬さ試験機,耐食性 は電気化学的方法で評価した。 銅電析の電解液は 0.8 mol dm CuSO 5H O,0.5 mol dm H SO を基本組成とし,添加剤は平均分子量 400~20000 の PEG 100 ppm,塩化物イオン 50 ppm,SPS,MPS ともに 0.5 ~1.0 ppm を用い,温度は 25 ℃とした。参照電極法の銅カ ソードには幅 400 μm,深さ 30 μm の溝を作製し,全作用面 積を 1 cm とした。凹凸部における添加剤の吸着挙動は走査 型電気化学顕微鏡 (SECM) を用いて解析した。 3 .電気化学的手法による機能膜創製の原理 機能皮膜はパルス電解法を用いて作製するが,電流を制御 する矩形波定電流パルスが一般に使用される。パルス電流密 度,パルス印加時間,パルス休止時間,パルス平均電流密度, 一周期 (T) に流れる電流の割合θ (デューティーサイクル) を 変化させる。 パルス休止時に拡散層の濃度勾配が緩和されて,カソード / 水溶液界面近傍の反応種イオン濃度は高い。直流に比較し て高いパルス電流密度 (高過電圧) が使用できるので,デンド ライト析出が抑制され,微粒子結晶や高硬度皮膜が作製でき る。パルス休止時には,皮膜内の不純物や吸蔵水素が溶出・ 除去されて,高純度,クラックフリー,多孔度の低い貴金属 めっき皮膜が,一方,リン,ホウ素など非金属元素の吸着現 象が起こり,アモルファス合金皮膜が容易に形成される。こ の皮膜 は硬度,耐摩耗性,耐食性,電極触媒特性に優れ, 薄膜磁気ヘッド用軟磁性膜および磁気記録媒体用硬質膜など に利用されている。拡散層を薄くできるので,浴組成に近い 合金皮膜を厚膜で形成することができ,耐久性にも優れてい る。溶液本体の濃度を 1/10 に抑えることが可能で,高価な 貴金属めっきにも有利である。 多層膜はパルス電解法を応用したダブルパルス法で作製す る。その電流波形を図 1 に示した。まず,貴な金属の拡散限 界電流密度以下の低電流パルス (i L ) を t L 時間通電して,貴な 金属のみ析出させる。つぎに,貴な金属の限界電流密度より も高い電流パルス (i H ) を t H 時間通電して,卑な金属を析出さ 電気化学的手法による高機能化薄膜創製の基礎と応用 山 下 嗣 人 a a 関東学院大学 工学部 (〒 236-8501 神奈川県横浜市金沢区六浦東 1-50-1)
doi:10.4139/sfj.64.222 fatcat:ehtsjjghgvervmawhd6zphrq6e