Evaluation of Forest Wind Damage Risk after Thinning by Wind Tunnel Experiment
Satoru SUZUKI
2017
Wind Engineers JAWE
Satoru SUZUKI 1.はじめに 森林と風関連災害との関係を検討する時,森林によっ て防止・軽減する災害と, 森林そのものが被害を受ける災 害との 2 つの見方がある。 風関連災害を防止・軽減するための森林として, 最も身 近なものは防風林であろう。 家の敷地や農地の外周, 道路 や鉄道沿いに樹木を帯状に配置することによって,強風 から家屋,道路,鉄道の被害を防止したり,農地の微気候 の改善に活用されている 1) 。また,海岸沿いには海岸防風 林が主にクロマツで造成されており,白砂青松と言われ るような日本の原風景を形作ってきた。これらの海岸林 は,多くの場合景観を形成するために植栽されたのでは なく,海からの強風,飛砂,飛来塩分を食い止め 2) ,内陸 側の農地や宅地を厳しい気象環境から守るため,あるい は居住, 営農不可能であった不毛の土地を農地, 居住地と するために長い年月をかけて植栽されてきたのである 3) 。 一方, 森林そのものが被害を受けたとき, 人的被害や財 産への損害が伴う場合は「災害」と表現され,その場合の
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... 生的 な森林や人為的な改変を行わないことを管理目標とした 森林が強風の被害を受けた場合は「撹乱」と表現され,こ の場合,強風による樹木被害は森林生態系の維持メカニ ズムの一つと位置づけられる。 すなわち, 森林分野におい ては森林が被害を受けるとそれが必ずしも災害とは認識 されず,人の手で植栽や保育が行われる人工林における 被害が「風害」である。 人工林では健全な森林を育成するため,収穫までの間 に何度か間伐を行って樹木の本数密度を調整する。その 時に現場では風害が発生しないかどうかに注意が払われ る。林業者は間伐後の数年間に風害が発生しやすいこと, 収穫期にあるような成熟した森林が被害を受けやすいこ とを知っているからである。 こうした, 風害に対して脆弱 である期間は間伐後 5 年程度続くことが分かっている 4)5) 。 風害が発生すると,それまでの数十年間におよぶ保育が 水泡に帰すばかりでなく,被害木の処理と再造林に多大 なコストを費やすことになり,林業経営に及ぼす影響は 極めて大きい。 また, 風害で地表面が大きく荒らされると 山腹崩壊が発生しやすいと指摘されており 6) ,国土保全 上の問題でもある。 さらに建築物や道路, 電力線などのイ ンフラ設備に倒木が二次的被害をおよぼすことがあり, 生活安全上の問題でもある。 1979 年から 2013 年までの年ごとの風害による被害面 積の推移を見てみると,風害は年ごとの被害面積に大き な変動があり,時間的に不均一に発生する特徴があるこ とがわかる(図 1) 。時折発生する大きな被害はいずれも 台風によるもので,最大の被害面積を記録したのは九州 *1 国立研究開発法人 森林総合研究所 森林防災研究領域 室長 -242 -特 集 * 国立研究開発法人 森林総合研究所 森林防災研究領域 気象害・防災林研究室 室長 Laboratory Head, Department of Disaster Prevention, Meteorology and Hydrology, Forestry and Forest Products Research Institute 風関連災害(風がひき起こす様々な災害) 北部で大面積の森林被害を生じさせた T9119 によるもの であり,2 番目は北海道で発生した T0418 による被害で ある。T9119 と T0418 は北海道において史上空前の森林 被害をもたらした洞爺丸台風(T5415)と経路が酷似して おり, 九州を通過した後日本海を北東へ進み, 北海道西部 に到達した台風であった。単木的な被害から斜面すべて の林木が被害を受けるようなもの(図 2)まで発生規模と 発生地の分布は様々である。大面積の被害は十年あるい はそれ以上に一度という頻度であって,そうした事態へ の対応を林業経営や森林管理に内部化する意識は生まれ にくいのが実情である。しかしながら,大面積の被害は 「孫の代に収穫する」 林業の時間軸において, 決して無視 できるほど頻度が小さいわけではない。 間伐方法として,通常は成長の悪い林木を個別に選ん で単木的に抜き切りする定性的点状間伐 (以下, 点状間伐 と表記する)が行われる。その他,植栽列の 1 列ないし 2 列をすべて伐採し,それを数列おきに繰り返す列状間伐 や比較的小さい面積の伐採を多数行う群状間伐がある。 点状間伐では 1 本ずつ成長や形質の良し悪しを判断して 間伐対象を決定し,それらを抜き切りしなければならな いのに対し,列状間伐における伐採列は原則として成長 等の良し悪しに関係なく機械的に決められて伐採される。 また, 間伐を実施する際は, 間伐方法だけでなく間伐率も 決めなければならない。間伐率が大きいほど一度に大量 の伐採ができるので経済効率性は高いが,伐採による林 冠の穴を多く作ることになるので風害リスクは高まる。 このように, 間伐方法, 間伐率ともに施業の省力化や経済 効率性を高めようとすると風害リスクが高まる関係にあ る。近年では林業の採算性の悪化や林業従事者の高齢化 により,選木,伐採,搬出が容易で経済効率性の高い列状 間伐の実施が増えてきている 8) 。さらに,従来よりも間伐 率を高める傾向が顕著であり,従来の間伐率を大幅に上 回る強度間伐が実施されるようになってきた 9) 。 このよう に風害発生を気にしながらも,実際には省力化や経済性 にもとづいて間伐方法が選択される傾向にある。その原 因は間伐に伴う風害リスクが事例的,定性的に述べられ るのみで定量的に示されておらず,間伐方法を選択する 上で風害リスクが考慮できる状況にないことが考えられ る。 そこで,本研究では点状間伐,群状間伐,列状間伐を対 象に,間伐実施後の残存木にもたらされる風害リスクを 定量的に示し,風害リスクの観点から間伐方法の優劣を 明らかにするのが目的である。
doi:10.5359/jawe.42.242
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