Large-Eddy Simulation of Turbulent Flow and Dispersion over Complex Terrain
複雑地形上の局地風・物質輸送のLES

Satoru IIZUKA
2009 Wind Engineers JAWE  
1. はじめに 複雑地形上の局地風を正確に予測することは、 風力 発電サイトの検討、 大気汚染物質や地球温暖化物質の 輸送解析、局地気象予報など、理工学や農学に関連す る様々な問題において極めて重要である。 複雑地形上 の風況予測に関する研究は古くから行われており、 20 世紀後半の研究については、例えば Wood 1) のレビュ ー(1948 年の Queney 2) 以降のもの)にまとめられて いる。Wood はさらにそのレビュー論文 1) において、 LES(Large-Eddy Simulation)が複雑地形上の風況予 測に対する有望な解析ツールとなりつつあることに 言及している。LES は CFD ( Computational Fluid Dynamics:計算流体力学)の一手法で、物理現象の 非定常性や詳細な 3 次元空間構造の解析を可能とす る(LES の詳細については、例えば飯塚ら 3) 参照) 。 一般に高い予測精度を持つことも LES の大きな利点 である。LES の欠点としては多大な計算負荷が挙げ られるが、 近年のコンピュータ性能の飛躍的な向上や
more » ... 術の発達により、 その問題は大きく緩和さ れてきている。LES は次世代の汎用 CFD 手法として 多大な期待を集めている。 LES による複雑地形上の風況予測の先駆的な事例 としては、 Dornbrack ら 4) や Gong ら 5) の研究が挙げら れる。2000 年以降は Brown ら 6) 、Allen ら 7) 、Iizuka ら 8), 9) 、Tamura ら 10) など、LES の適用事例は増えつ つある。しかしその多くは、実際の大気に相当する Reynolds 数となっていない実験スケールのものであ り、また、地形形状も 2 次元を仮定(空間の一方向が 一様と仮定)したものが多い(ただし当然のことなが ら 3 次元計算に基づいている) 。最近では、Askervein 丘(スコットランドの South Uist 島にある孤立丘) 11) を対象とした Lopes ら 12) 、Chow ら 13) の LES の事例 もあるが、 実際の地形を対象としたものはまだそれほ ど多くない。その大きな理由の一つとして、流入境界 条件の取り扱いの困難が挙げられる。 流入境界条件と しての変動風をいかに正確に再現できるかは LES の 成否を左右する重要なポイントとなるが、 様々な要素 が複雑に絡み合う実際場において、 その再現は容易で はない。これについては 3 章の「今後の課題」で再度 述べることにしたい。 2. 複雑地形上の局地風・物質輸送の LES 事例 本章では、複雑地形上の局地風・物質輸送の LES の一例として、筆者らの解析事例を紹介する。解析対 象は山岳地形上の局地風および CO 2 輸送である。な お、この解析は実際場を対象としたものではなく、石 原らの 2 次元山岳地形モデル上の乱流場の風洞実験 14) をベースとして、CO 2 輸送および大気安定度をさら に組み込んだものである。 2.1 解析対象 余弦の 2 乗の断面形状を持つ 2 次元山岳地形モデル (石原らの風洞実験 14) と同じ形状)上の乱流場およ
doi:10.5359/jawe.34.410 fatcat:g6b35s754zekvdrus2jjbsl7oy