Young PIs in Agricultural Science
第1回農学中手の会:自らの旗を振り始めた農学研究者たち

Shuhei Miyashita, Yu Tanaka, Hisayo Yamane, Takaki Yamauchi, Masaru Fujimoto, Ken Naito
2016 Ikushugaku kenkyuu - Breeding Research  
キーワード 作物学会,園芸学会,植物病理学会,ウイルス,光合成,休眠制御 はじめに 作物学会,育種学会,園芸学会,...と,農学系の学会 は多数あるが,互いに開催時期が近すぎて複数の学会に 参加することは難しい.しかし実際に他の学会に参加し てみると興味深い研究発表や,自分の研究に応用してみ たい研究手法に出会えることも珍しくないはずだ.なら ば,学会間の人的交流を継続的に推進できる場を作るこ とはできないだろうか,というのがこの「農学中手の会」 発足の趣旨である. 第一回目の今回は,自らが取り組むべき研究テーマと 出会い,さらに成果を上げ始めた 3 名の研究者を招聘し, 講演して頂いた. 演題 1.植物病理学のフロンティア~実験と数理モデリ ングで覗き見る,植物ウイルスの社会生活~(宮下脩平) 1.はじめに 植物ウイルス 病に直接的な防除効果をもつ薬剤は存在 しない.植物ウイルス 病の防除手段としては,媒介生物 の駆除や感染植物個体の早期発見・処分による感染拡大 予防のほかに,抵抗性遺伝子導入品種の作付が利用され 2016 年 1 月 5 日受領 Correspondence:
more » ... aito@affrc.go.jp ている.しかし前者はコストがかかり,後者は育種に時 間がかかる上に,ウイルスの 変異で抵抗性が打破されて 被害が出る例も数多く報告されており,いずれも効果的 とはいえない.そのため,新しい発想に基づく植物ウイ ルス防除技術の確立が必要とされている. 2.ウイルスにおける社会性の発見 演者は,ウイルスの 遺伝子産物の多くが宿主細胞内の ウイルス集団(1 細胞あたり 100 万コピーにも達する) によって共有利用されることに注目し,これがウイルス 集団にとって潜在的だが重大な「社会問題」を生み出す ことに気づいた(図 1A) .ランダムな変異によって生み 出される変異は殆ど不利な変異であるが,そのような変 異をもつウイルス (欠損ウイルス )が他のウイルスの 遺 伝子産物を利用するフリーライダーとして 生き残ってし まう,という問題である.この問題をウイルスがどのよ うに解決しているかを,演者らは 2010 年に提案した (Miyashita and Kishino 2010) .具体的には, 「各細胞に感 染するウイルスゲノム 数の平均(MOI: multiplicity of infection)が小さいことで,フリーライダーとそれ以外 が確率的に分離される結果,選択が実現される」という ものである(図 1B) .演者らは,植物 RNA ウイルスであ るムギ類萎縮ウイルス(JSBWMV)およびトマトモザイ クウイルス(ToMV)を材料に,これらのウイルスが感 染細胞から隣の細胞に感染する際の MOI が 5 程度でしか ないことを,蛍光タンパク質遺伝子で標識したウイルス 育種学研究 18: 85-91 (2016)
doi:10.1270/jsbbr.18.85 fatcat:uqamhiqgafbmtg6muefjbkarly