Sensor Technologies That Support US Healthcare Reform
Yasunori KIMURA, Matthew DEPETRO, Hideaki TANIOKA
2011
IEICE ESS FUNDAMENTALS REVIEW
1.はじめに 2010 年 3 月に米国で医療制度改革法案が成立した.この動 きと連動して,医療現場,健康保険制度等の改革が進んでい る. 本稿では,この動きを概観した上で,国民の健康の維持, 増進をサポートするための mHealth(Mobile Health) を中心に 説明する.その際,mHealth を実現するためのキー技術であ る生体情報を取得するためのセンサ技術の現状を中心に説明 する. 2.米国の医療制度 本章では,米国の医療制度について要点を述べ,それの持 つ問題点を明らかにする.また現在米国で進められている医 療制度改革の方向について述べる. 2.1 制度の特徴 (日本との違い) 米国では 2010 年 3 月の法律成立まで,州により多少の違い はあっても,健康保険に入るのは任意であった.一般的には, 人口の約 10% にあたる 3,200 万人が無保険の状態にあるとい われている.これら無保険者は病気になっても医者にかから ず,重篤になって初めて救急病院に連れて行かれることが 多いといわれている (救急病院は無保険者でも診察を拒めな い)
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... 者は,高度医療を必要とし, また治療期間の長期化を招くことが多く,結果的に医療費の 高騰を招く一因といわれている. 次に医療費の高さが上げられる.しかも年々,大幅な費用 の増加が見られることが特徴である.ある調査によれば (1) , 米国の医療にかかる費用は,2,530 億ドル (1980 年) ,7,140 億 ドル (1990 年) ,2.3 兆ドル (2008 年) となっている.図1にそ の内訳を示す.一人の国民としては,平均で 7,681 ドル払っ ており,これは米国の GDP の 16.2% に相当する (2008 年) .多 くの米国民は健康に暮らしていることを想定すれば,いった ん病気になった場合の負担の大きさは想像を超えるものにな る. また,米国ではいわゆる,高度医療と呼ばれる最新の医療 が施される傾向が強いといわれている.これが医療費の高騰 を招く一因である.更に,投薬の回数,量も多いといわれ, その一方で患者は処方された薬を指示どおり飲まないともい われている.医療費が無駄に使われている. 更に,医療制度改革法案の通過により,必要される医療従 事者数が増え,加えて 65 歳以上の高齢者の爆発的な増加がそ 米国の医療制度改革を支えるセンサー技術 Sensor Technologies That Support US Healthcare Reform 木村康則 Yasunori KIMURA Matthew DEPETRO 谷岡秀昭 Hideaki TANIOKA アブストラクト 米国で医療制度改革法案が成立したことにより,医療現場の効率化や健康保険制度の改革などが進んで いる.本稿では,これらを推進するための有効な手段と考える mHealth と呼ばれる考えを紹介し,それを実現するた めの生体情報を取得するためのセンサ技術特に血圧と血糖値の測定手法に関して現状を紹介する.また, このアプロー チが真に実現されるための課題も述べる. キーワード 米国医療制度改革,mHealth,non-invasiveness,血圧測定,血糖値測定 木村康則 正員 米国富士通研究所 れに拍車を掛けている状況にある.アメリカ医科大学協会が 2010 年 6 月に実施した最新の調査結果 (2) によれば,2010 年で は年約 1 万 4,000 人が,2010 年までに約 9 万 2,000 人以上の医 療従事者が不足するとされ,人的リソースの確保を含めどう このギャップを埋めるかが課題となっている.なお,日本で も厚生労働省の 2010 年度全国調査 (3) によれば,2 万 4,000 人 もの医師が不足しているとの発表がされ,医療システムの崩 壊が叫ばれている. 2.2 対策 この医療制度の危機に対応するためにオバマ政権が取り組 んだのが,医療制度改革である (4) .これには大きく分けて, 全米国民に健康保険に入ることを要求する国民皆保険制度の 導入と,医療制度の改革 (効率化) がある. 国民皆保険制度は 2014 年までに米国民全員に何らかの健康 保険制度に加入することを義務付けるものである (正当な理 由なく入らない場合はペナルティが科せられる) . ここで問題となるのは,今まで無保険だった国民にも強制 的に加入させるわけであるから,制度として見た場合,費用 をどのように負担するかである. これについては,比較的病気になりにくいと予想される若 年層 (18 歳から加入の義務がある) の加入費用や,保険会社等 に拠出金を要求することにより,不足分を補おうとしている ように見える. もう一つの改革は,医療制度そのものを効率化しようとす る試みである.例として EMR(Electric Medical Record) と呼 ぶいわゆる 「カルテ」 の電子化がある.2014 年までに全ての病 院,診療所はカルテを電子化し,他からアクセスできるため のインタフェースを自病院で準備しない場合,政府からの医 療補助が削減される. 一方,2011 年 1 月からは,各病院や任意の病院,薬局等で グループを組み (ACO: Accountable Care Organization と呼ばれ る) ,Medicare(65 歳以上の高齢者に対する連邦政府の健康保 険制度) における医療費の削減を達成した場合,削減分の一 部がその主体 (ACO) に政府から還元されるようなシステム も稼動する (5) . これらは医療システムそのものの効率化を狙ったものであ るが,もう一つ米国で特徴的なのは,予防医療,在宅医療に 対する投資である.米国では先に述べたように政府による皆 保険制度がなかったため,企業がその従業員に対する健康保 険制度を用意することが多かった.例えば,従業員 5,000 人
doi:10.1587/essfr.4.311
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