第16分科会「政治経済学の歴史と方法」報告(第61回大会分科会報告)
清水 敦
2014
Political Economy Quarterly
■ 1. 玉手慎太郎 (東北大学・院) 報告: 「 『政治経済学』 の発展と分化の学説小史」 。 本報告では,現在多義的に用いられている 「政治経 済学」 という用語について,その共通点と相違点を明ら かにするため次のように論じられた。第 1に現在の日本 ではこの用語がおよそ7 種類の異なる意味で用いられ, それらの統一的理解は未だ試みられていないことが指 摘される。第 2 に 「政治経済学」 から 「エコノミクス」 への 名称の転換に焦点を当てて経済学説史を振り返り,こ の転換には 2 つの意味での 「脱政治化」 衽衲分析対象 を経済現象に限定するという意味と,分析において価 値判断を考慮しないという意味衽衲が係わっていたと する。その上で第 3に現代の政治経済学の多様な用法 は,この 2 つの 「脱政治化」 に対して再度 「政治」 を接続 する試みであり,第 1 のそれに対しては政治現象と経済 現象を同時に扱う発展が,そして第 2 のそれに対しては, 価値判断を明示的に取り組むかたちでの発展があると する。 この報告に対して沖公祐会員 (香川大学) からコメント
more »
... 済学とマルクス派経済学は経済学 に価値判断を導入しようとするものだという評価の妥当 性,現在の政治経済学の用法のすべてを2 つの 「脱政 治化」 という観点から区別することの可能性,古代ギリ シャにおける経済学の位置づけについて質問がなされた。 ■ 2. 佐藤公俊 (長岡工業高等専門学校) 報告: 「ビアトリ ス ・ポッター・ ウェッブの社会経済学の方法」 。 本報告では,ビアト リス ・ポッター・ ウェッブが取り組ん だ基本問題や経済学研究の変遷などが概観され,彼 女の社会経済学の方法について考察されたが,当日 の発表は,初期の経済学研究に関する部分と,初期 ビアトリスの社会学的経済学像に関する部分を中心に 行われた。前者については,1886 年と87 年の草稿が 検討され,経済学と社会学との関連と価値論が主要 テーマとなったことや,社会学の一分野として経済学の 存在を認めた点でマーシャルの学問態度との共通性が あることなどが指摘される。後者に関しては,彼女の経 済学研究の方法として,政府部門からの市場への干 渉・介入関係,外部からの労働関係と産業・企業組織 への規制関係,および福祉的効果を強調する福祉国 家論に向かう 「社会生理学/社会病理学」 の政策科学 としての方向や,社会体制としての 「社会有機体」 の歴 史的関係を考察する 「社会進化論」 の方向があげられる ことを指摘したうえで,My Apprenticeshipを著した 1926 年段階と 1886 年段階との方 法上の相違や,スペン サー批判にみられる方法上の特徴などが説明された。 この報告に対して,舩木恵子会員 (武蔵大学) によるコ メントが行われ,佐藤報告原稿にあるビアトリスの初期 草稿における三層構造の理論の内容,1886 年段階に おけるマーシャルの経済理論の内容,彼女の経済学の 対象領域設定と進化する社会の規定に関する初期と後 期の相違などについて質問がなされた。 ■ 3. 宇仁宏幸 (京都大学) 報告: 「J. R.コモンズの専有 的希少性概念」 。 本報告では,Kapp は制度経済学の核心は累積的因 果連関の原理であるとするが,コモンズの主著 『制度 経済学』 ではこれに関する明示的な言及がなく,また Tonerなどの累積的因果連関に関する学説史的研究で はコモンズが取り上げられていないと指摘したうえで, コモンズの制度経済学の体系の中にこの原理は含まれ ていないのだろうかと,問題を提起する。そして,カル ドアとボアイエの累積的因果連関モデルを概説したうえ で, 『制度経済学』 の前半部分と1927 年草稿でコモン ズが着目している経済変数は効率性と希少性であると 指摘し,この両概念の特徴と関係が説明されたのち, 専有的希少性概念の拡充に基づいて行われた買い手 側の需要量コントロールについて考察し,コモンズの累 積的因果連関の構図が説明される。そして, 『制度経 済学』 において累積的因果連関という言葉を用いては いないが,コモンズは,専有的希少性という概念の拡 充を通じて,ボアイエの累積的因果連関モデルに極め て近い構図を制度経済学体系に組み込んでいる,と結 論される。 この報告に対して,コメンテーターである中原隆幸会 員 (阪南大学) から次のようにコメントが行われた。すなわ ち,この報告では,コモンズが考えていたであろうマク ロ経済動学における機能的因果連関が制度的契機を 組み込んだ上で描き出されており,今までヴェブレンの みに偏っていた累積的因果連関の理論に新たな方向 性を与えたという意味で興味深いが,コモンズが重視 していた主権の深化については,この構図だけでは説 明できないと指摘された。 以上の諸報告に対する会場からの意見・質問につい ては紙幅の都合上割愛する。 経済理論学会第 61 回大会部分科会報告
doi:10.20667/peq.51.1_115
fatcat:ojizldxghrgaxcvhxwoninsk7m