Dynamism and diversity of human gut microbial community
Ayaka Uchikawa, Masaru Tanaka, Jiro Nakayama
2017
Japanese Journal of Lactic Acid Bacteria
1. はじめに ヒトの腸管には数百種もの細菌が生息しており、それら が複雑な細菌叢コミュニティーを形成している。そしてそ れらは、直接的あるいはその代謝物を通して、宿主と相互 作用し、宿主の生理や免疫系に影響を与えている 1-3) 。本 格的な宿主と腸内細菌との共生は、出生を契機に始まり、 死を迎えるまで続く。その重要性を認識しながら、現代の 腸内細菌学では精力的に研究が展開されている。特に、こ の 10 年間の次世代型 DNA シーケンサーの登場とその技 術の発展で、16S rRNA アンプリコン解析による腸内細菌 叢のハイスループットなプロファイル化、さらにはショッ トガン全メタゲノム解析による機能ベースの細菌叢のプロ ファイル化が行われるようになると、上記の腸内細菌叢の 形成過程を事細かく観察したり、世界中の人の細菌叢を俯 瞰的に見たりすることが可能になった 4-7) 。 本総説では、それらの次世代型 DNA シーケンサーで明 らかにされつつある 2 つの事象、すなわち、乳幼児期の腸 内細菌叢の形成(ダイナミズム)と、人類の腸内細菌叢の 多様性(ダイバーシティー)について、
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... 著者らのグルー プが近年取り組んでいる、新生児の菌叢と後のアレルギー 発症についての前向き調査研究のデータと、アジア人の腸 内細菌叢調査プロジェクト(Asian Microbiome Project: AMP)のデータを中心に用いて解説する。 2. 乳幼児期の腸内細菌叢形成と宿主へのインパクト 2-1. 乳幼児期の腸内細菌叢形成のダイナミズム 従来、ヒトの腸管は無菌状態で出生すると考えられてい たが、今日では、胎便からも細菌が検出されたとする報告 もあり、腸内への細菌の定着は胎児期に始まるという説が ある 8-9) 。しかし、本格的な腸内細菌叢の形成は、出産を 契機に始まる。最近、従来無菌であるとされていた母乳に ついても、低菌数であるが細菌が含まれており、母乳が乳 児の腸管への細菌の供給源の一つであると考えられるよう になった 10-13) 。しかし、実際に新生児糞便から検出される 細菌の多くは、このような母子間の垂直伝播によるものよ りむしろ環境菌が多く、外環境から偶然取り込まれる細菌 が初期にはメインで増殖するようである。このような環境 ヒト腸内細菌叢のダイナミズムとダイバーシティー 内川 彩夏 1 、田中 優 1 、中山 二郎 2 1 九州大学大学院生物資源環境科学府生命機能科学専攻 2 九州大学大学院農学研究院生命機能科学部門システム生物工学講座 ほぼ無菌状態で生誕するヒトの腸管には、出生とともに様々な細菌が定着を始める。そして成長とと もに食事が母乳から離乳食、そして大人と同様の食事を摂取するようになるまで、腸内細菌叢はダイナ ミックかつ多様な変化をしながら成熟していく。この複雑な過程を微生物学と生体医学の原理で理解す ることが腸内細菌学の一つのゴールと言えよう。世界中の腸内細菌学者がこの目標達成のために、新生 児の腸内細菌叢の形成過程を詳細に調査し、 また世界中のヒトの腸内細菌叢データを収集している。特に、 近年の次世代シーケンサーの登場により、腸内細菌叢のプロファイル化が容易になり、この分野の研究 が爆発的に進展している。著者らも、国内の新生児 200 名以上の腸内細菌叢の変遷データを収集し、ま た、Asian Microbiome Project(AMP)を設立し、アジア人老若男女の腸内細菌叢データを網羅的に収 集している。本総説では、それらのデータを紹介しながら、ヒトの腸内細菌叢のダイナミズムとダイバー シティーについて考察する。 Abstract Immediately after the birth, a number of bacteria start to colonize in the gut of newborn and a complex microbiota consisting of a several hundred species was eventually established through dynamic changes under lactation and weaning. To understand a complex ecosystem of gut microbiota in human, a vast number of studies, including birth cohort studies and world cohort studies, are being performed extensively. Notably, recently developed next generation sequencer used to profile gut microbial community structure has gained deep insight in the diversity of gut microbiota in human beings. The authors are also collecting gut microbiota profiles of a large number of Japanese infants and Asians from newborns to elderly. In this review, these microbiome data are shown with discussion on the dynamism and diversity of gut microbiota in human beings.
doi:10.4109/jslab.28.74
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