シーケンス境界の形成時期ーIODP Exp.317ニュージーランド南島東方沖陸棚斜面掘削コアの分析結果からー
Timing of the sequence boundary formation: results from the slope cores of IODP Canterbury Sea Level in New Zealand

Koichi Hoyanagi, Naomi Murakoshi, Sho Koto, Yuki Kobayashi, Tomoyuki Kamihashi, Shungo Kawagata
2012 Annual Meeting of the Geological Society of Japan  
【はじめに】 シーケンス層序学の基本単位「堆積シーケンス」の設定に必 要なシーケンス境界が海水準変動のどの位置で形成されるのかについては, 多く議論がなされてきた.例えば,初期のモデル(Posamentier et al, 1987) では海水準低下途中の最も海水準低下速度の速くなる時であるとしたが, Plint and Nummedal(2000)は最も海水準が低い時にシーケンス境界が形成 されるとした.一方,コアや露頭で記載される不連続面のスケールと地震波 断面の反射面のスケールとが大きく違うことも問題である.すなわち,海進 海退に伴って形成される岩相変化と不連続面は,露頭やコアでは 10 m 程度 の厚さの地層中にいくつも見出されることがあるが, これを地震波断面で識 別することはできない. IODP(統合国際海洋掘削計画)第 317 次航海(2009 年 11 月 4 日から 2010 年 1 月 4 日)では,縁辺海域の地層形成と海水準変動の関係を解明する目的 で,サイスミックシーケンスが研究されている(Lu and Fulthorpe, 2004)ニ
more » ... タベリー沖の水深 85 m から 125 mの陸棚上 3 カ所 と水深 344 m の陸棚斜面の 1 カ所の掘削をおこない, サイスミックシーケン ス境界を掘り抜いてコアを採取した. 【研究手法】 今回の検討には,コア回収率が 100%近い陸棚斜面上部で掘 削された U1352B コアの上部 550mを用いた.このコアについて,次の分析 をおこなった. (1)底棲有孔虫化石 Nonionella flemingi を用いて安定酸素同 位体比と安定炭素同位体比を約 1 から 2m 間隔で測定,LR04 stack(Lisiecki and Raymo, 2005)と比較してコアの年代を約 10,000 万年の精度で求めた. (2)約2m間隔でコアから採取した試料を塩酸処理で無機炭素を除き,有 機炭素量(TOC)と有機物の安定炭素同位体比(δ 13 C org )を求めた. (3) コアにおけるシーケンス境界の位置を堆積相の記載を元に決定した. これら をもとにシーケンス境界の形成時期を推定した. 【結果と考察】 掘削深度 550 m までには,U19 から U13 までのサイスミッ クシーケンス境界が認められる(Lu and Fluthope, 2004) .そしてこれらの境 界は,コア中の不連続面(S1 から S6 など)と対比可能である.また,この コアから求めた底棲有孔虫 N. flemingi の安定酸素同位体変動曲線は,LR04 stack の MIS 63(1.8Ma)までのほとんどのステージと対比可能で,ミラン コビッチスケールの海水準変動を復元できる.このことから,コア中の不連 続面と求めた酸素同位体比曲線の関係から,シーケンス境界の形成年代を U19 が 0.13 Ma,U18 が 0.42 Ma, U17 が 0.63 Ma,U16 が 0.86 Ma,U15 が 1.53 Ma, U14 が 1.65 Ma, U13 が 1.8-2.7 Ma と決めることが出来る. さらに, この酸素同位体比曲線が海水準変動を表しているとすると, 大きいハイエイ タスをもつ U13 を除くシーケンス境界は,MIS6, 12, 16, 22, 52, 58 の海水準 が最も低下した直後に形成されていると考えられる.そして,シーケンス境 界を覆う砂層の堆積期には,酸素同位体比の値は上昇しており,これらの砂 層は海進期に堆積したと思われる.すなわち,少なくともニュージーランド 沖陸棚斜面のシーケンス境界は,海水準が最低を記録した直後に形成され, 海水準が低下している時期には形成されていない.また,シーケンス境界は 10 万年から 70 万年の間隔で形成されており,必ずしも決まった周期で作ら れていない.なお,表層水温を示すと考えられる有機物の安定炭素同位体比 値はシーケンス境界形成時には高い値を示しており, 海水準上昇に先立って すでに海水温は上昇していた可能性が高い. 引用文献
doi:10.14863/geosocabst.2012.0_243 fatcat:4oxbtsndt5fyjjeryofewaryw4