2. Intermittent nutrient supply from rivers to Bisan Seto
2. 河川からの間欠的栄養塩供給

SHUZO TAKAGI
2011 Nippon Suisan Gakkaishi  
1. はじめに 瀬戸内海中央部の備讃瀬戸で行われている浮き流し式 ノリ養殖では,溶存態無機窒素(DIN)不足による色落 ちが近年頻発し,大きな被害を受けている。一方,河川 水は,海水の 10 倍程度の栄養塩を含むことから,河川 流量は海域の DIN 量に大きな影響を与えると考えられ ている。そこで,吉井川旭川の 2 つの一級河川が注 ぐ児島湾とその周辺をモデル海域として,河川水由来の DIN の動態について調査を行ったので,その概要につ いて述べる。 2. 河口域での栄養塩の動態変化 2007 年の 9 月(夏)と 12 月(冬)に,吉井川から児島 湾を通じて備讃瀬戸に至る 20 測点において,表層の塩 分と DIN の関係を調べた(図 1) 。夏には,塩分 5 付近 では DIN が 30 mM 近くあったが,塩分が 20 以上とな る河口付近とその沖でほぼ 0 mM となっていた。クロロ フィル a 量の調査等によって河口域のプランクトンによ り DIN が取り込まれ(斜線部分) ,海域への直接的な DIN 供給がなかったことが分かった。一方,冬は塩分 と DIN
more » ... が見られ,植物プランクトンの 影響を受けることなく,河川から供給された DIN は海 水によって保存的に希釈されながら海に供給されていた。 3. 河川からノリ漁場への間欠的 DIN 供給 2007 年 12 月から 2008 年 2 月までの間,児島湾沖の ノリ漁場内の 19 ヶ所に,塩分自動観測装置を水深 50 cm に設置し,10 分間隔で測定した。図 2(a), (b)に 12 月 8 日および 24 日の 0 時から 11 時までの 1 時間毎の 塩分分布を示した。12 月 8 日は年間最低流量時(吉井 川+旭川の日平均合計河川流量は約 30 m 3 /s) ,12 月 24 日は小出水後 (前日の同合計流量は 87 m 3 /s) にあたる。 河川流量が増加した 24 日では,8 日と比べて塩分低下 範囲,低下幅は共に大きくなっていた。一方,低塩分水 塊の動きは共通しており,潮位の低下に伴い,湾口部か ら河川水が流出しはじめ,最干潮時に流出量は最大とな った。その後,上げ潮時に西向きに流れる備讃瀬戸の潮 流によって,南西に移動しながら海水と混合し,干潮か ら 5 時間後には河川水の影響は見られなくなった。年 間最低の河川流量時でも湾口から約 10 km の場所まで 河川水は到達していたが,海域のそれぞれの場所毎の河 川水の影響はいずれも間欠的であった。 冬季の同海域では,低塩分=高 DIN であることか ら,ノリ漁場には河川から間欠的に栄養塩が届き,河川 流量の増加に伴って DIN 供給量は増加する。河川流量 の増加は,ノリの色落ち対策として効果的であると考え られた。
doi:10.2331/suisan.77.112 fatcat:xxolndjb2nev7gkl37zadqygju