Hard Chromium Plating Using Trivalent Chromium Baths

Ryokichi SHIMPO
2018 Journal of The Surface Finishing Society of Japan  
クロムめっきは,硬さが 800 ~ 950 Hv 程度と高く,耐摩 耗性に優れ摩擦係数が小さい,皮膜自体の耐食性に優れると いった特徴を有している。そのため硬質皮膜として多くの目 的で工業製品に利用され,また表面光沢も優れているため装 飾めっきとしても広く使用されている。さらに金型などから の離型性が良い,有機物との凝着性が低い,皮膜が劣化した 場合に修復がしやすいといった利点も有している。 このように有用なクロムめっきではあるが,サージェント 浴を代表とするめっき浴は,有害な 6 価クロムを主成分とす るため,めっき作業員の健康保全上の観点より,その使用へ の制限が以前より取沙汰されてきた。クロムめっき皮膜自体 には,洗浄を問題なく行うことにより 6 価クロムは残存しな いが,欧州における REACH 規制等に対応するため,6 価ク ロムを含む浴より電析されるクロムめっきに代替する皮膜の 開発が急務となっている。 これまでクロムめっきに代替する技術として,高速ガス溶 射皮膜,表面窒化処理,無電解の Ni-P めっきや Ni-B めっき が実用化されており,また電気めっきにおいても
more » ... i-W めっ き等が開発されている。高速ガス溶射皮膜などは硬さや耐久 性においてクロムめっきを凌いでいる。しかしながら全ての 面でクロムめっきよりも優れた性質を有する皮膜は見つかっ ていない。そこで現在,開発が急がれているのが 6 価クロム を含まない硬質クロムめっき浴の開発である。既に装飾用に おいては 3 価クロム浴が実用化されており,硬質クロム用の めっき浴についても数社から製品が販売されているが,それ らによる硬質 3 価クロムめっきの性能についてはまだ 6 価ク ロムを用いた浴による皮膜に達していないと思われる。ここ では,これまでの 3 価クロムめっき浴開発の足跡と,著者ら が開発を行っている塩化クロム-グリシン浴の概要について 示す。 2 .3 価クロムめっき開発の歴史 3 価のクロムめっき浴の開発は,1854 年に Bunsen によっ て開始されたとされているが,Benaben によると 1848 年に Junot Debussy によるフランスの特許が出されているという ことである。何れにせよ今から 160 年以上前であるが,その 直後より多くの研究が為されたが再現性に乏しいということ で,後発の 6 価クロムを用いるめっき浴が実用化されたのに 伴い,3 価のクロムめっき浴の開発研究は下火となった 。 しかしより毒性の低いめっき浴を求め,わが国では 1950 年 代に吉田により硫酸クロムと硫酸アンモニウムを主成分とす る浴が有望であることが報告された。吉田は浴を安定化させ るためには適切な錯化剤を添加すべきことを指摘し,尿素を 加えた浴を提案した (表 1) 。吉田は,錯化剤を加えることに より皮膜と母材との界面での水酸化物生成を防ぎ皮膜のより 正常な電析を助けると考察した 。 1970 年代に入ると,英国の Word らが錯化剤としてジメチ ルホルムアルデヒドを加えた DMF 浴を提案し,その後, A&W 社 が DMF 浴 を 改 良 し 装 飾 ク ロ ム め っ き 用 と し て Alecra3 浴を発表した , 。加藤らは,A&W 社の特許に示さ れているめっき浴組成を参考に 3 価クロムとして塩化クロム を用いた浴 (表 2) でハルセル試験を行い,さらにギ酸を酢酸, クロール酢酸類,グリコール酸,グリシン,乳酸,グルコン 酸,グリオキシ酸,ピルビン酸,シュウ酸,マロン酸,コハ ク酸,酒石酸,アスコルビン酸およびクエン酸などに置き換 えた実験を行った 。グリコール酸塩やグリシンを加えた場 合,浴を熟成した後に比較的良好なクロムめっきが得られた が,ギ酸よりも優れたものは見つからなかったと報告してい る。また塩素発生を抑制するために臭化アンモニウムが加え られていると思われるが, それでも塩素の発生を報告している。 硬質 3 価クロムめっき 眞 保 良 吉 a a 東京都市大学 工学部 機械工学科 (〒 158-8557 東京都世田谷区玉堤 1-28-1)
doi:10.4139/sfj.69.219 fatcat:lbyeisjjzzfwbb3yjh6giziybm