History of Research on Anodizing of Aluminum
アルミニウムアノード酸化研究の歴史

Hideaki TAKAHASHI
2015 Journal of The Surface Finishing Society of Japan  
第 81 回武井記念講演会の演者の依頼があり,余り事の重 大さに気がつかず承諾してしまった。若い頃,たくさんの高 名な先生方の講演を聴いてきた私にとっては,夢の舞台であ り,かなり敷居の高い舞台である。さて,お引き受けした以 上何かをお話ししなければ,いけない訳であるが,研究の第 一線から引いてから,約 7 年が経ち,技術の最前線に少々疎 くなってきている現在, 「アノード酸化技術の現状と将来」 , 「アノード酸化の最前線」など気の利いたタイトルをつける 訳にはいかない。幸い, 研究のキャリアーは 50 年近くあるし, 昔のことを知っている方々が減りつつあるので,表記のタイ トルでお話しをすることにした。 アルミニウムは,約 190 年前,デンマークの物理学者エル ステッドにより始めて金属として得られ,その後,ホール・ エルー法 (1886) およびバイヤー法 (1888) の確立により工業的 に生産されるようになった。1855 年に開かれたパリ博覧会 では,アルミニウムの食器が展示され,金・銀製品より人気 があったそうである。先史時代から利用されている Fe,Cu
more » ... めて新しい金属といえる。クラーク数で は,O,Si に次いで第 3 位を占めるにも関わらず,アルミニ ウム金属が人類の前に現れた時期がこのように遅いのは,酸 素との親和力が極めて強く,酸化物をカーボンにより,容易 に還元できないためである。アルミナの還元には,電気の力 が必要であり,Al 金属の出現はボルタの電池 (1800) の発明 を待たなければならなかった。我が国でアルミニウムの精錬 が始めて行われたのは,1934 年であり,その歴史は 80 年を 数えるのみである。第一次石油ショック (1973) により我が国 の Al 精錬工業は崩壊し,Al 精錬は日本軽金属㈱の蒲原工場 でのみ細々と行われていたが,それも昨年,設備老朽化のた め停止された。 アノード酸化は,アルミニウムの表面処理技術として最も ポピュラーな方法であるが,これらは,いつ頃から行われる ようになったのであろうか。バリヤー型および多孔質型皮膜 に分けてその歴史を辿る。 2 .バリヤー型皮膜研究の歴史 中性電解質溶液中で Al をアノード酸化すると緻密なバリ ヤー型アノード酸化皮膜が得られる。この酸化皮膜の生成機 構の解明は,Güntherschultze & Betze(1931) および Verwey (1934) に始まった。すなわち,以下に示す高電場モデル アルミニウムアノード酸化研究の歴史 -日本人研究者の貢献を中心に-高 橋 英 明 a,b a 日本ケミコン㈱ (〒 141-8605 東京都品川区大崎 5-6-4) b 北海道大学名誉教授 (〒 060-8628 北海道札幌市北区北 13 条西 8 丁目) Al Oxide film Electric field a) b) 図 1 高電場イオン移動モデルにおける a) 皮膜にかる電場および b) Al イオンの移動 Al O Al 格子欠陥 † 第 131 回講演大会 (会期:平成 27 年 3 月 4 日~ 5 日,会場:関東 学院大学) における「特別講演:第 81 回武井記念講演会」の講演 要旨をもとに加筆修正いただいたものです。
doi:10.4139/sfj.66.410 fatcat:qyytlq4bx5elfdklrtvs5opssa