The Dawn of Biological Molecular Science

Teizo Kitagawa
2008 Molecular Science  
1 . はじめに 私が大学院修士課程に進学した時,ポリペプチドの二次 構造を赤外吸収と理論計算で解明する研究の国際的最前線 おられた宮澤辰雄先生の門を叩いた。しかし先生は「物理 化学専攻の学生が生体分子の測定をするのは勧めない」と 云われ,私はポリエチレン結晶の振動スペクトルと固体物 性を調べるよう助言された。学位論文は,直鎖炭化水素の 極限とも云えるポリエチレンの結晶振動を分子間力を入れ たモデルで計算し,赤外・ラマンのデータ以外に比熱,ヤ ング率,X線回折温度因子,中性子非弾性散乱の断面積, 分散曲線等を統一的に解釈するものとなった。分光測定で 分子間力パラメーターを決めて計算すると,当時日本では 測定データのなかった中性子非弾性散乱スペクトルの異方 性を見事に説明できて注目された 1 。その後宮沢研の助手に してもらったのでテトラオキサン[ (C H 2 O) 4 (T O) ]と云う 環状化合物を高純度化し,先端を針状にしたガラス管にそ れを封入して,融点付近に温度勾配のある炉中をゆっくり 通過させるブリッジマン法の装置を自作して,T Oの透明な
more » ... れに g線を照射すると, (C H 2 O) 4 が開環して上下側の分子と共有結合を作り非常に 配向度の高いポリオキシメチレン(P OM)ができた。それ を用いてポリエチレンと同様な研究をしていたが,途中で ミネソタ大学への留学が決まった。留学先では,純液体の n (屈折率) や k (吸光係数)を AT R法で正確に決め,それ より液体中の分子運動を論ずる研究をしていた。帰国する と宮澤先生は東大・理・教授に異動され,後任教授の研究 方針は「蛋白質構造化学」になった。筆者は研究内容を完 全に変えるか,研究室を替えるかの選択を迫られ,前者を 選んだ。その選択がその後の自分の方向を決めた事になり, よかったと思っている。 2 . 振動分光の研究 米国で私は高屈折率半円柱を用いた赤外内部反射法を用 い,自分の作った P OM 固体の異方性 nと kを決めようと 実験していたが,プリズム面と固体表面の接触度が問題に なり,結果的にはうまくいかなかった。しかし,この時代 に電磁波と物質の相互作用を基礎から勉強し直した。この 不毛の時代が私にポテンシャルをつけてくれたと思える。
doi:10.3175/molsci.2.a0015 fatcat:2tnr343dzvaitceq7wekj75gzu