Repair of Oxidative DNA Damage in Mammalian Cells
哺乳類の酸化的ゲノム障害修復機構

Hiroshi IDE, Mayumi MATSUBARA, Atsushi KATAFUCHI
2006 Seibutsu Butsuri  
哺乳類の酸化的ゲノム障害修復機構 広島大学大学院理学研究科数理分子生命理学専攻 井出 博,松原真由美,片渕 淳 DNA that carries vital genetic information constantly suffers from oxidative damage. Oxidative DNA damage is generally repaired by the base excision repair (BER) pathway initiated by damage-specific DNA glycosylases. Although the basic mechanism of BER is conserved from bacteria to mammals, recent studies indicate that mammalian cells use an elaborate and efficient repair network to cope with oxidative DNA damage. It remains elusive how
more » ... enzymes gain access to and repair DNA lesions in the condensed nucleosome organization of the eukaryotic genome. oxidative DNA damage / base excision repair / DNA glycosylase / chromatin structure 1.はじめに 生物が生きていくためには DNAに蓄えられた遺伝情 報を正確に複製し発現する必要がある.しかし,ヌク レオチドが重合した高分子としての DNAは化学的に安 定なものではなく,細胞内の水との接触による加水分 解や代謝産物との反応により絶え間なく構造的欠陥 (損 傷)が生じている.さらに,細胞外からの DNA 傷害性 因子(放射線,紫外線,化学物質)は,DNA 損傷の生 成を促進する. また, 損傷そのものは含まないものの, DNA複製エラーにより生じる塩基のミスマッチや欠失・ 挿入も DNA 損傷の一種としてとらえることができる. これらの損傷が適切に修復されないと,遺伝情報の複 製や発現に影響を与え,細胞死や突然変異の原因とな る.したがって,DNA 修復は生物にとって不可欠な機 能の 1 つであり,生物は損傷の種類に応じて多様な修 復機構を備えている.主要な修復機構としては,活性 酸素・アルキル化剤・加水分解による損傷の修復にか かわる塩基除去修復(base excision repair, BER) ,紫外 線・多環芳香族化合物による損傷の修復にかかわるヌ クレオチド除去修復(nucleotide excision repair, NER) , 放射線・DNA 架橋剤による損傷の修復にかかわる組換 え修復, DNA 複製エラー生成物の修復にかかわるミス マッチ修復などがある 1) . ヒトの場合, これらの機能の 破綻の多くが,高発がん性症候群や遺伝病の原因とな る 1) . 活性酸素による酸化損傷は,ゲノムに最も高頻度に 発生する損傷であり, その基本的な修復機構 (BER) は 大腸菌を用いた研究により確立された.近年,これを パラダイムとして哺乳類の修復機構の研究が進み,そ の全体像が明らかになりつつある.本稿では,哺乳類 の酸化的ゲノム障害修復機構を概説し,これにかかわ る DNA グリコシラーゼの構造,機能,損傷サーチ機構 について最近の知見を紹介する. 2.酸化的DNA損傷の生成と塩基除去修復機構 ミトコンドリアや活性化されたマクロファージは, 生 体内における活性酸素(O 2 − , H 2 O 2 , ·OH)の発生源であ り, これらは直接あるいは間接的に塩基損傷や DNA 鎖 切断を誘発する 2) .DNA グリコシラーゼにより酸化塩 基損傷を脱塩基部位に変換し定量したわれわれの最近 の研究では, HeLa 細胞ゲノム 10 6 bp あたり酸化ピリミ ジン損傷が 12,酸化プリン損傷が 4,脱塩基部位が <1 と見積もられており,酸化損傷の定常的レベルはかな り高い 3) . 相補的な塩基間の水素結合および隣接塩基と のスタッキングは, DNA の二重らせん構造維持だけで なく, DNA 複製や転写において中心的な役割を果たす 相互作用である.酸化損傷の多くは,構造的欠陥によ りこれらの相互作用に異常をもたらし, DNA 合成阻害 や非相補的ヌクレオチドの取り込みの原因となる.さ らに,水素結合やスタッキングの変化はへリックスを 局所的に不安定化し, 修復酵素の損傷認識にもかかわっ ている. 酸化的塩基損傷を含む DNA は, 基本的に B 型構造を 維持しており, へリックスに大きな歪みは生じない. 脱 アミノ化やメチル化により生じる塩基損傷を含むDNA
doi:10.2142/biophys.46.263 fatcat:n3n2fdkd2jf7fha7srjdjd4tqy