Siエピタキシャル薄膜作製プロセスのシミュレーション
Numerical Simulation of Silicon Epitaxial Film Growth

Hitoshi HABUKA
2006 Shinku  
. 序 論 半導体シリコンウエハは種々の電子回路を形成するための 基板材料として広く用いられている.電子回路を作製し易く するために,シリコンウエハの表面に予め種々の抵抗率や伝 導型を有するシリコン結晶薄膜を形成しておくことが多く, そのために一般的に用いられている方法がシリコン気相エピ タキシャル成長法である. これは1957年の報告 1) 以来凡そ50年に渡り工業的に活用さ れてきた技術であり,これまでに種々の装置とプロセスが開 発され使用されてきた.これに並行して,エピタキシャル成 長の装置とプロセスを活用するための道具として数値シミュ レーション技術の開発が進められてきた.これまでに成長, ドーピングなどの基本現象のモデル化 2,3) が試みられ,最近 では局所的膜厚分布形成が装置の構造に起因することを説 明 4) できるなど,工業的プロセスと装置を検討するための実 用的手段に発達した. そこで本稿では,シリコンエピタキシャル薄膜作製におけ る成長速度とドープ量を数値計算により予測する方法につい て紹介する. . シリコン気相エピタキシャル薄膜成長の一般 的条件
more » ... 相エピタキシャル成長法は,高温に加熱されて いる半導体シリコン基板の表面においてシリコン化合物ガス による化学反応を生じさせることにより,シリコン結晶薄膜 (エピタキシャル膜)を形成する技術である. これらの工程は,1 気圧から0.1気圧程度の水素ガスの雰 囲気を用いて行われている.シリコン基板の加熱には赤外線 放射加熱,高周波誘導加熱,抵抗加熱が主に用いられ,シリ コン基板とサセプターの温度が高く,気相の温度を低く保つ 温度環境(コールドウォール)が形成されていることが多 い. シリコン化合物ガスには,モノシラン(SiH 4 ) ,ジシラン (Si 2 H 6 ) ,ジクロロシラン(SiH 2 Cl 2 ) ,トリクロロシラン (SiHCl 3 )などが用いられている.本稿では,工業的に最も 多く用いられている SiHCl 3 ガスを用いたエピタキシャル成 長について述べる. . 輸 送 現 象 エピタキシャル成長の速度は,SiHCl 3 ガスが成長装置の 入口から気相を経由してシリコン基板表面に運ばれる速度と 基板表面における化学反応の速度によって決定される.そこ で,次の方程式群を用いてガスによる物質輸送を解析する. 連続の式(質量保存) 運動方程式(運動量保存) エネルギー方程式(エンタルピー保存) 化学種輸送の式(化学種保存(SiHCl 3 , HCl) ) 理想気体の状態方程式 工業生産にはコールドウォール環境が用いられているため, その装置を解析する場合には,化学種輸送の式において分子 拡散に加えて熱拡散を考慮することが必要である. 方程式を解くにあたっては,成長装置の形状を細かなセル に分割する.そして,それぞれのセルにおいて上記の方程式 群を解くことにより,成長装置内の熱,流れ,化学種濃度と 成長速度が得られる.本稿に紹介する計算には,主に SIM-PLE アルゴリズム 5) を用いている. . 支配的化学反応過程 . シリコン結晶成長の化学反応と速度 SiHCl 3 ガスによるシリコンエピタキシャル薄膜成長にお いて,成長中に排出されるガスを分析した結果 6) に基づいて 主な化学反応過程を図示すると,図および(1) , (2)式の 通りである. SiHCl 3 →*SiCl 2 +HCl↑(化学吸着) (1) *SiCl 2 +H 2 →*Si+2HCl↑(シリコン生成) (2) *は,シリコン結晶表面に化学結合している状態を示す. コールドウォール環境において成長装置の入口から導入さ れた SiHCl 3 ガスは,気相中における化学反応を殆ど抑制さ れたままシリコン基板表面に運ばれ,そこに吸着して(1)式 のように中間体*SiCl 2 を生成する.中間体に残った塩素原 子は水素により取り去られ, (2)式のようにシリコンが残る ことによりエピタキシャル成長が進行する. *SiCl 2 の上には SiHCl 3 分子が吸着できないことを仮定す ると,定常状態におけるシリコンエピタキシャル成長速度 V r (mol m -2 s -1 ) はラングミュア型の反応速度式に基づいて (3)式のように記述 2) される.
doi:10.3131/jvsj.49.525 fatcat:tvdw3fw435b4rpsphnmy2w6vna