Measurement and Compensation of Error Motions of Five-axis Machine Tools
5軸制御工作機械の運動誤差測定とその補正

Soichi IBARAKI
2012 Journal of the Japan Society for Precision Engineering  
1.は じ め に 工作機械の空間誤差という言葉を耳にする機会が増えて いる.例えば,工作機械の受渡し検査の規格を担当する ISO の TC39/SC2 分科委員会では,空間精度の考え方を 新しい規格に取り入れようという動きが活発である.最近 改定された ISO 230-1 規格 1) では,空間精度という用語が 定義されるとともに,誤差パラメータや基準座標系の考え 方などが,新しい附属書として追加された.また,空間誤 差の補正に関する標準報告書も新しく提案されている 2) . コンピューター数値制御(CNC)の大手メーカの多くが, 最近になって,空間誤差の補正機能を実用化したことも, 空間誤差が最近注目されている理由のひとつである. 空間誤差の評価とは,工具端の指令位置と実際の位置と の差を表す 3 次元ベクトルを,可動領域全体で評価するこ とを指す 3) .例えば,X 軸の位置決め誤差は,X 軸の姿勢 誤差(ヨーなど)が原因で,Y 位置が変わると変化する 場合がある.空間誤差の評価とは, 「ある軸の誤差運動が, 別の軸の位置によってどのように変化するか」を可動領域
more » ... と,と考えることができる. 空間誤差の考え方は,5 軸制御工作機械の旋回軸にも拡 張できる.例えば,傾斜軸(B 軸)の上に回転テーブル (C 軸)が乗せられたテーブル旋回形の 5 軸制御加工機を 考える.C 軸の割り出し精度,回転中心の位置誤差,振れ などの回転運動精度は,B 軸が水平の状態で検査されるの が一般的であろう.しかし,B 軸が垂直の状態になれば, 重力によるベアリングの変形などが原因で,誤差が増大す る場合がある.つまり,C 軸の運動誤差が,B 軸の角度に よって変化する. 旋回軸の最も基本的な誤差要因は,旋回軸と直進軸の直 角度や,中心の位置誤差など,旋回軸の組み立て誤差 (アライメント誤差)を表す誤差で, 「幾何誤差」と総称さ れる場合もある.これらは,旋回軸の軸平均線の位置・姿 勢の誤差である.軸平均線とは「基準座標系に対して配置 した,回転軸の平均位置を表す直線」と定義され 4) ,すな わち回転軸を 1 回転させたときの,位置と姿勢の「平均」 の誤差といえる.幾何誤差の評価法は,ボールバーを使っ た補間運動試験法,静的精度試験などが普及しつつあり, ISO 規格化の動きも進められている 5)6) . 幾何誤差は 5 軸運動の基本的な誤差要因であるが,それ に加えて, 「ある軸の誤差運動が,その軸,または別の軸 の角度とともにどう変わるか」を評価することの重要性が 認識されつつある.特に旋回軸の傾きは,旋回中心から離 れるほど工具-ワーク間の相対変位に及ぼす影響は大きく なるので,特に大型機では重要である. 本稿では,5 軸制御工作機械の旋回軸の誤差運動の測定 法に関する,最近の研究動向を紹介したい.なお,ISO 規 格の動向に関しては, 「精密工学会誌」78 巻 7 号の特集記 事 7∼9) が詳しい.また,より広範囲の研究レビューは,文 献 3) を参照にしていただければ幸いである. 2.ボールバー測定 ボールバーは両端に球を配置したバーの伸縮を測定する 装置で,直進 2 軸による円弧補間運動の輪郭運動誤差を測 定する円運動精度試験が,工作機械の精度検査に広く普及 している 10) .このボールバーを用いて,旋回軸の幾何誤差 を 評 価 す る 方 法 は,90 年 代 か ら 活 発 に 研 究 さ れ て き た 11)∼14) .日 本の委員から ISO 規格化の提案が行 われ, ISO 10791-6 の附属書として発行される予定である 5)7)8) . 図 1 は,規格原案 5) に示されたボールバー試験の一例で ある.回転テーブル(C 軸)の回転と同期して,ボールバ ーが常に C 軸の軸方向に向くように,X・Y 軸を円弧補間 運動させる.この測定は,C 軸平均線と X・Y 軸の直角度 が大きく影響する.同様に,ボールバーを C 軸回転の接 線方向,半径方向に向くように同期運転すれば,C 軸中心 の位置誤差などを評価することができる. これらの測定は,旋回軸の幾何誤差を同定することが主 な目的である.しかし例えば,C 軸の誤差運動が傾斜軸
doi:10.2493/jjspe.78.763 fatcat:6jwcd6mx7bbr5nii4mh3o35nce