Present Status and Future Prospects of Ultrasonic Quantitative Diagnosis

Hiroyuki HACHIYA
2012 IEICE ESS FUNDAMENTALS REVIEW  
非侵襲・無観血でリアルタイムに生体内部を描画できる超 音波診断装置は,重要な診断手段として臨床現場へ広く普及 している.最近では,高速で高度なディジタル化が進行し, その基盤の上に種々の応用技術が進展しており,今後も発展 していくと予想される.しかし,これまでの超音波画像によ る診断は,パルスエコー法による組織の散乱強度の分布を反 映した臓器の断面表示画像,あるいは臓器断面にパルスドプ ラー法により得られる運動情報を加えた画像から得られる形 態的特徴と画像輝度パターンの定性的判読を中心として行わ れてきており,定量性の面では不十分である.生体の物理特 性を反映する組織の音響特性を指標に,より客観性を持った 定量診断を行う組織性状診断 (Tissue Characterization,以下 TC) を行う試みもあり,超音波を用いて計測した信号から算 出される音速や減衰などの値と,実際の生体組織内の構造を 比較検討することで,組織そのものが持つ音に対する性質を 捉えようという検討 (1) ~ (5) や,超音波断層画像のテクスチャ と生体組織の比較 (6) ~ (9) などがある.
more » ... 断層画像の変化に着目した TC についての研究は, 超音波診断装置が普及した当初から進められてきた.しかし, 断層画像から得られる情報 (または受信したエコー信号) は, 診断装置内部でアナログ系の回路を通った情報であり,画像 化のために多段の信号処理が施された結果であるため,反射 源となる生体の変化と反射波の特性変化との関係を十分に解 析することが困難であった.1990 年代半ばになり,超音波診 断装置のフルディジタル化に伴い医用超音波技術も急速な発 展を遂げ,深さ方向の各点に最適な振動素子遅延時間を正確 に設定し,画像ピクセル単位でのフォーカス制御による高精 度な受波ビームを形成できるなど,これまでの診断装置では 不可能であった処理が可能となり,更には生体からの反射波 の RF(Radio Frequency) エコー信号を高精度で収集し,多く のエコー信号情報が得られるようになったことから,TC 分 野の研究が再検討されてきている.更に,最近では,縦波音 速に関係する組織の体積弾性率ではなく,横波音速や,触診 時に感じる生体の硬さに対応する剛性率による検討も盛んに なってきた (10) , (11) . 生体の物理的性質を反映する超音波の伝搬特性を指標とし て,病変による組織変化を定量化しようとするには,生体中 の音速や減衰などの音響特性と病変による組織変化との関係 を把握することが極めて重要である.生体組織は様々なス ケールでの構造を持っている上,病変の発生と進展は三次元 的な構造に依存して生じ,種々の不均一構造を持っているの で,音波と生体組織の相互作用は均一媒質との関係に比べ格 段に複雑である.更に,ヒトの組織試料では,測定に種々の 制約が発生し,試料に対する自由度は少なく,系統的な検討 が困難である.また,生体組織において 「正常」 あるいは 「軽 度」 , 「重度」 などの病変の程度は,通常,医師の側から総合 的に評価されるので,組織の物理的,化学的変化の程度と音 響特性の対応は直接的でないことが多い.このため,定量的 な議論に耐えられる診断手法の検討は多くないのが現状であ る. 本稿では,組織定量診断に関連する検討の現状と, 「超音 波定量診断学」 への展開を意図した生体組織と超音波の関係 の系統的解明の将来展望について,国内において症例数の多 いびまん性肝疾患 (肝炎,肝硬変など) を主な例にしながら述 べる. 超音波定量診断技術の現状と課題 Present Status and Future Prospects of Ultrasonic Quantitative Diagnosis 蜂屋弘之 Hiroyuki HACHIYA アブストラクト 超音波断層装置を用いた医用診断は大きな成果を上げ,超音波診断装置は非常に普及しているが,断層 画像を用いた診断には医師の経験や熟練を必要とする.生体の音響特性を利用し定量的な診断情報を得ようとする試 みも行われてはいるが,生体組織の大きな特徴である不均一な構造は十分に考慮されておらず有用な定量診断情報に は今一歩届いていないのが現状である.本解説では,生体の音響特性の特徴と超音波定量診断技術の現状について紹 介し,何が問題なのかを考察し,将来の研究についての展望を述べる. キーワード 超音波,定量診断,レイリー分布,スペックル,肝炎,肝硬変 蜂屋弘之 正員:シニア会員 東京工業大学大学院理工学研究科
doi:10.1587/essfr.5.244 fatcat:b6kaiiftovbmdkifpqnb5guj74