Ⅱ-3. Effect of freezing on the control of formaldehyde formation
Ⅱ-3. 冷凍貯蔵下のホルムアルデヒド生成制御の効果

HIDETO FUKUSHIMA
2016 Nippon Suisan Gakkaishi  
1. エソ類の冷凍すり身の問題点 海産魚類の中でもエソ類やタラ類は,魚肉や血液中に 浸透圧調節成分であるトリメチルアミン N オキサイド (TMAO)を多量に含む。 1) 死後,血合肉中や微生物が 生育しやすい室温下では TMAO 還元酵素により TMA が生成される。 2) 一方,氷蔵や加熱時では TMAO 分解 酵素により DMA とホルムアルデヒド(FA)が等モル 量生成されるが, 3) FA は筋肉タンパク質と結合し変性 を起こすことが加工利用する際の問題となっている。 スケトウダラについては,aspolin 4) や Fe 2+ が関与する TMAO の分解機構 5) など既に多くの報告があるが,冷 凍による FA 抑制についての詳細は不明である。またタ ラ類に比べ,エソ類については研究が進んでいるとはい えない。エソは白色の肉色や優れた味,加熱ゲル形成能 を有することから,スケトウダラと同様にすり身として の需要が高い。エソ肉を練り製品に用いる場合,高鮮度 のものを極めて簡単な水晒しにより 「生すり身」 とする。 これを凍らない 4°C
more » ... 。 こうした「生すり身」の利用期間は製造後の数日に限ら れる。そこで,冷凍条件下でエソ肉の FA の生成を抑制 する条件を調べるとともに,すり身としての利用を想定 し,水晒し工程が FA 生成に及ぼす影響について検討し た。 2. 冷蔵および冷凍貯蔵中のエソ肉の FA 生成 新鮮なエソからミンチ肉を調製したところ,TMAO 量は 34 mmol/g であり,TMA および FA は検出限界以 下であった。これを 15°C で貯蔵した場合,TMAO の ほとんどが TMA に変化し,FA は生成しなかった。4°C 貯蔵では TMAO が減少するにつれて TMA は増加 し,貯蔵 10 日後に約 30 mmol/g となった。一方,FA は貯蔵 5~10 日後から増加し,貯蔵 20 日後には 7 mmol /g に増加した。遊離 FA は貯蔵 20 日後では約 0.1 mmol /g と僅かに検出される程度であったことから,FA の殆 どがタンパク質と結合した状態と推定された。 一 方 , -10°C 貯 蔵 で は 貯 蔵 40 日 後 に FA は 約 10 mmol/g と顕著に生成し,生成した FA の 90 近くが タンパク質と結合していた。-20°C 貯蔵も貯蔵 40 日後 には 7 mmol/g と FA が明確に生成した。一方,-25°C 貯蔵では FA は貯蔵 40 日後でも貯蔵開始時と殆ど変わ らず,TMAO は安定に保たれ,TMA および FA は生 成しなかった。-25°C 貯蔵は-20°C とわずか 5°C の差 であるが,FA 関連化合物の分解生成に明確な相違があ った。-35 および-50°C 貯蔵では,-25°C 貯蔵と同様 の傾向を示した。したがって冷凍貯蔵中の FA の生成は -20°C と-25°C で大きく異なり,-25°C より低い温度 で凍結貯蔵すれば,FA の生成は防止できることが示さ れた。 3. 水晒しによる FA 関連化合物の除去 すり身製造工程にある水晒しが FA 関連化合物に与え る影響について調べたところ,肉量の 10 倍の水を用い た 2 回の水晒しで水溶性物質である TMAO の 96 97 は除去され,水晒しによる TMAO の除去効果は明確で あった。一方,鮮度低下して既に FA が生成した肉で は,水晒しでも FA は取り除けず,-50°C の冷凍貯蔵 中においてもタンパク質の変性が認められた。 4. まとめ エソ肉の冷凍すり身としての利用を考えると,原料に は FA の生成量が少ない高鮮度の魚体を使用することが 重要で,鮮度が低下して FA が多量に生成している魚体 は不適である。さらには水晒しを充分に行い,FA の前 駆物質で水溶性の TMAO の状態で除去することが必要 である。現在の簡便なエソすり身の水晒し工程を改善 し,また貯蔵温度を-25°C 以下にすることで,加熱ゲ ル形成能を保持した冷凍すり身の製造ならびに長期保管 が可能であると考えられる。 文 献 1) Dyer W. Amines inˆsh muscle. VI. Trimethylamine oxide content ofˆsh and marine ivertebrate. novel extremely aspartic acid-rich protein inˆsh muscle, promotes ironmediated demethylation of trimethylamine N oxide. J. Bio. Chem. 2003; 278: 47416 47422. 5) 木村メイコ,関 伸夫,木村郁夫.0°C 以下の温度におけ るトリメチルアミン N オキシドの酵素的および非酵素的 分解.日本水産学会誌 2002; 68: 85 91.
doi:10.2331/suisan.wa2318-6 fatcat:5rcwkgo6cfbj5jwjbtgw6qcljy