The Relationship between Changes in China's Export Policy and Rare Earth Prices
中国の輸出政策の変更と希土類の価格変化の関係について

Kazunori FUKUDA, Hisayuki HARA, Kazumitsu NAWATA
2010 Journal of MMIJ  
1.は じ め に 希土類 ( レアアース ) は,ランタノイド 15 元素にスカンジウ ムとイットリウムを加えた 17 元素の総称であり,その用途は磁 石,蛍光体,二次電池,触媒,研磨剤,ガラス添加剤など極めて 多岐にわたる。 希土類は,我が国製造業の国際競争力の鍵を握る資源であり, 同時に今後の地球温暖化対策の鍵を握る資源でもある。例えば, ハイブリッド車や省エネタイプのエアコンには,希土類を原料に 用いるネオジム磁石が使用される。これらの製品の省エネ性能は ネオジム磁石の品質と密接な関連があるが,我が国はネオジム磁 石の製造技術に関して世界を大きくリードしている。この例が示 すように,我が国の高度な希土類加工技術は,我が国の自動車, 家電などの各種メーカーの国際競争力を支える大きな要素の一つ である。その強みは,今後地球温暖化対策が全世界的に推し進め られ,上記製品の市場が拡大していく中で,さらに大きく発揮さ れることになると見込まれる。また,このような流れの中で,我 が国の希土類需要は今後大きく伸びることが予想される。 その一方で,我が国は希土類の国内需要の全量を海外からの輸
more » ... 入に依存している。とりわけ世界最大の生産国である中国への依 存度が高く,2008 年には全輸入量の約 91%を中国から輸入して いる 1) 。先に述べた希土類の重要性に鑑みれば,その安定的な 確保は我が国の最優先課題の一つである。ここで述べる安定的な 確保とは,量及び価格の両面における安定的な確保のことを意味 している。 しかしながら,希土類の安定的な確保は特に近年では困難にな 1 2 3 This paper analyzes relations between China's export restrictions and rare earth prices in recent years. China has decreased the rates of Value Added Tax (VAT) rebates on rare earths raw materals (ores, metals and compounds) since 2004. It has also increased the rates of export duties on the same items since 2006. It appears that China has taken such measures to restrict outflows of rare earth raw materials, and these measures have been taken several times in recent years. Rare earth prices generally soared for the last several years. For example, price of dysprosium, one of the rare earth elements, has increased by about six times between June 2003 and June 2008. We analyzed relations between China's measures for export restrictions and prices of ten rare earth metals between June 2003 and June 2008 by using regression models. The findings of this analysis are as follows. (1) There is a strong tendency in which rare earth metal prices increase significantly soon after enforcement of an export restriction by China. (2) As China repeats measures for export restrictions, length of time between enforcement of such a measure and occurance of price increase has become shorter. This paper also mentions the possibility that demand for rare earths will be less price elastic in the near future. It is highly probable that growing needs to tackle global warming will require people to buy a greater number of eco-frindly products including hybrid vehicles. In such a situation, demand for rare earths, which are raw materials for essential parts of such products, would increase substantially. In addition, manufacturers of such products would have no choice other than procuring certain amount of rare earths regardless of their prices, since there is few alternative raw materials for these products. Under such circumstances, demand for rare earths would be less price elastic, and thus, rare earth prices in the future are likely to be more volatile. 中国の輸出政策の変更と希土類の価格変化の関係について ってきている。まず,量の面では,世界的に需要が拡大する一 方,中国が輸出数量制限を強化している。世界全体の希土類の 約 97%を生産する 2) 中国が輸出数量制限を強化することは,世 界の市場に供給される希土類が減少することとほぼ同じ意味を持 つ。また,価格の面では,過去数年間に急激な変動が起きている。 例えば,希土類のうち,ネオジム磁石の原料となるジスプロシ ウムの金属価格は,2003 年 6 月から 2008 年 6 月までの 5 年間で 約 5.8 倍に上昇している。また,蛍光体などの原料となるテルビ ウムの金属価格は,同期間内に約 4.3 倍に上昇している。いずれ の金属についても,直近の価格は 2008 年末以降の世界的な不況 の影響もあって,2008 年中盤のピーク時よりも下落しているが, 依然として 2003 年時点に比べれば極めて高い水準にある 3) 。 このような急激な価格上昇は,そもそも希土類の市場規模が小 さく,需給の少量の変化が相対的に大きな影響を市場に及ぼすと いう環境があることに加え,希土類を原料とする製品の需要が世 界的に増加したことによって生じたのではないかと考えられる。 また,中国が増値税還付の撤廃・還付率の引き下げ,輸出税の導 入・税率の引き上げといった輸出抑制策を実施していることも要 因の一つではないかと考えられる。 今後,我が国は希土類の安定的な確保に向けて更なる取組を進 めるべきであるが,そのような取組を適切に進めるためには,量・ 価格の両面における安定的な確保がどのような要因によって阻害 されており,当該要因がどの程度深刻な影響をもたらしているの かを明確に把握する必要がある。本稿では,そのための一つの試 みとして,特に中国の輸出抑制策が希土類価格に及ぼす影響に焦 点を絞り,中国の輸出抑制策と希土類価格の上昇には関連がある のか,また,関連があるとすればどのような影響が生じているの かについて実証分析を行う。さらに,その結果を踏まえ,従来に 比べて希土類市場に急激な価格変動が起こりやすい環境が生じて いるのかどうかについて考察する。 非鉄金属価格に影響を与える要因については,過去に多くの実 証分析が行われてきている。例えば,Fama and French (1988) は, 在庫量の多寡が銅,鉛,亜鉛などの価格の変動性に与える影響に ついて分析している 4) 。また,Slade (1991) は,生産者によって 価格が決定される制度よりも,商品取引市場において価格が決定 される制度の方が価格の変動性は大きくなるとし,70 年代初頭 から 80 年代中盤にかけて銅,鉛,亜鉛などの価格の変動性が大 きくなった主な理由は,商品取引市場における取引の拡大である とする分析を行っている 5) 。Brunetti and Gilbert (1995) は,在庫 量と消費量の比率がアルミニウム,ニッケル,亜鉛などの価格の 変動性に与える影響について分析している 6) 。Labys et al. (1999) は,工業生産指数や為替レートなどのマクロ変数と銅,鉛,亜 鉛などの価格との関係について分析している 7) 。縄田 (2001) は, 品に至るまで,生産プロセスの順を追って転嫁が進められること になる。価格転嫁は,原材料価格の変動に連動して製品価格が設 定されるサーチャージ制をとっている場合を除き,基本的には企 業間の交渉によって進められる。従って,ごく短期間のうちに価 格上昇が起きれば,価格転嫁を進める時間的余裕もないままに, 少なくとも一定の期間は部材を生産する企業が価格上昇に伴う負 担を背負うことになる。 以上のように,中国の輸出抑制策は,我が国を含む中国以外の 国の希土類消費者に幅広く影響を与えるものであり,とりわけ部 材を生産する企業に大きな影響を与えていると考えられる。 また, 今後の市場環境が Fig. 3 から Fig. 4 のような形に変化していくこ とになれば,輸出抑制策が希土類消費者に与える影響はより一層 大きくなると考えられる。 7.対策のあり方 中国の輸出抑制策が幅広い影響を我が国に及ぼしており, また, その影響の度合いは今後より一層強まるおそれがあることを踏ま えれば,我が国としてはその影響を最小限に防ぐために出来うる 限りの対策を講じる必要がある。以下では,我が国としての対策 のあり方を述べることにしたい。 対策の第 1 は,中国以外の国での希土類生産を拡大し,供給源 を多角化することである。既に述べたように,中国は世界の希土 類生産をほぼ独占しており,我が国も希土類輸入量の約 9 割を中 国からの輸入に依存している。現在の希土類市場の問題点は,中 国が独占的供給者である地位を活用し,輸出抑制策を通じて世界 の市場を操作できる状況が生まれていることである。また,中国 の輸出者の間に「協調」が成立しており,政府が実施する輸出抑 制策の効果がごく短期間のうちに市場に反映される環境が出来上 がっていると考えられることも消費国にとっては問題である。現 時点においては,輸出抑制策の影響で中国からの輸出価格が上昇 しても,我が国の希土類消費者は他国からの調達に切り替えるこ とが困難であり,その影響を直接受けてしまうことになる。さら に,中国が輸出量を大幅に削減することがあれば,希土類を原料 とする製品の生産拠点を中国に移転せざるを得なくなるおそれも ある。 中国以外の国での希土類生産が増加し,中国が独占的供給者で ある状態が解消されれば,中国による輸出抑制策の市場への影響 を相対的に小さくとどめることが可能になる。例えば中国が輸出 量を大幅に削減したとしても,他の地域からある程度の供給が確 保されれば,価格の急激な上昇を避けることができる。また,中 国が輸出税率を引き上げたとしても,中国以外の地域から供給さ れる希土類価格に変化がなければ,中国の輸出者は「協調」によ る即時の価格引き上げを実施することは難しくなる。さらに,供 給源が多角化されれば,中国以外の国の希土類輸入者が中国の輸 出者に対して強い価格交渉力を持つことができるようになる。希 土類の取引は,LME のような国際市場を介してではなく,売り 手と買い手の相対取引として行われる。従って,例えば我が国の 輸入者が中国以外からも相当量の希土類を調達できることを示せ れば,中国の輸出者の言い値ではなく,より安価で取引を行うこ とが可能になると考えられる。 現在,過去数年間の価格上昇や今後の需要拡大の見通しを受け て,世界各地で希土類の生産再開や新規生産に向けた動きが活発 化している。具体的には,豪州,ベトナム,インド,カザフスタ ン,カナダ,米国,ブラジルなどでそのような動きがあることが 報じられている。それらのプロジェクトのいくつかについては我 が国の商社などが参入しているが 30, 31) ,こうしたプロジェクト
doi:10.2473/journalofmmij.126.172 fatcat:xrog6cwdkvegnphv5ybjtnnota